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第9話

 警備員では……ない、か。  現れたのは、淡い色のスーツを着こなす中年の男だった。  その自信に満ちた顔つきや品のある所作を一目見れば、ただの平社員でないことくらいは察しがついた。  男は右手を差し出して、柾に握手を求めた。 「初めまして。私が、マネージャーをしております望月 亮佑(もちづきりょうすけ)と申します」  促されるまま手を差し出せば、ぎゅっと一度強く握られる。 「マネージャー……」 「秘書のようなものです」  シャープな輪郭の男は、薄い唇で高藤に関していえばと付け加えた。  これは……警備員よりは、話を聞いてもらえ……るといいのだが。 「どうぞこちらへ」  促され、オフィスの奥へと案内された。  多くの社員が働く大部屋を通り過ぎ、しばらく廊下を歩いたところのつきあたりの部屋の前で望月は立ち止った。 「こちらの部屋になります」  接客用と思われる個室に通され、部屋の中央に置かれたソファに座るように促された。  いきなり個室へと連れていかれたのも驚いたが、藍にこんなスマートに振舞う秘書のような者がいたことにも驚いた。  部屋のドアを閉め、目の前のソファに座る望月は、隙がなくいかにも仕事ができるといった雰囲気で、眼鏡の奥の双眸はいかにも秀才といった印象を受ける。  こんな秘書と藍が2人で歩いていたら、さぞかし目立つだろうと考えていた時、望月の言葉で現実に引き戻された。 「本日は、どのような御用件でお越しいただいたのでしょうか。まず失礼ですがあなた様のお名前は――」 「深谷柾といいます。藍のことで相談したくてお伺いしました」 「藍……高藤のことを御存知なのですね」 「知っているというか、家にいるんです」  何とも言えない沈黙が流れる。  目の前の男は柾を見つめたまましばらく動きを止め、柾は柾でもっと説明できる言葉を探していた。 「家に」 「かれこれ一週間ほど」  藍と同居をすることになった経緯を説明しようにも、しっくりくる言葉がなかった。  一番近いこの現状を表す言葉と言えば、“押しかけられるまま同居している”だろうが、この言葉の響きでは、どことなく放埓で流されやすい男との印象を相手側に与えかねない。 「……偶然新幹線で隣り合わせて」 「そうですか。ずっと探していたのですよ、かつての同級生という人を」  え、と顔を上げた柾に、望月は口角を小さく上げ穏やかな表情で頷く。 「高藤は普段私どもの本社で働いていますが、この日本に来ることになって、昔の同級生を探したいと言っていました」  藍が? 「それで、そういう業者に頼んで探してもらっていたようです」  え。おいおいなんか……

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