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第11話
――どうせ戻ってきてほしいと言っても、出社してくれないでしょうから、これを。
小型のパソコンとスマホを持たされ、帰ることになった。
あれ……? 引き戻さないんだ。
拍子抜けしたまま電子機器を受け取り、望月の巧妙な仕切りに流され、あれよあれよという間に送り出された。
もう一度会社に乗りこんで彼を引き取ってほしいと強硬に主張する勇気は柾にはなく、電子機器の入った布袋を大事に抱えて地下鉄の駅に戻っていた。
……――追い出そうとしたのだけど。追い出す先を、聞き出そうとしたのに。
おかしいと小首を傾げながら地下鉄に揺られ、小一時間かけて帰宅した。
ただいま、と呟いて部屋に入れば、ソファに座ってテレビを見ていた藍が、その背もたれごしに振り返った。
柾の腕に抱えられた布袋を見て、藍は不思議そうな顔をしながら、昼間から開けた缶ビールをあおっている。
……あれが“本社の要人”? 同姓同名の別人なんじゃないのか。
昼間っから冷えたビールを飲み、のびのびと自由自適に過ごすこの男が、あんなきれいなオフィスで働いている姿をまず想像できなかった。
「おかえり。何持ってるの?」
柾は問答無用とばかりに、藍が座るソファの前のテーブルにパソコン、その上にスマホを置いて、藍を見下ろした。
「藍、おまえのだ」
「えっ」
意外と言わんばかりに見上げてくる藍を横目に、テーブルの上に並べられた缶ビールを手に取った。
1缶は既に空けられていて、2缶目はまだ冷たく量もあって、手をつけたところだったようだ。
缶を片付ける柾に何かを感じ取ったらしく、藍はテレビを消して、ソファから振り返る。
「どこに行ってきたの」
柾は空き缶を捨てた後、アイランドキッチンの間切りに寄りかかり、没収した藍の缶ビールに口をつけた。
冷たいその液体は、外から帰宅したばかりの熱のこもった身体に染みていく。
「おまえの会社。名刺に書いてあったろ」
しまったと言うように驚いた顔を見せてくるところは、やはり海外暮らしが長いだけある。
それ以上、柾が何も言わないのを知って、藍はしぶしぶと目の前のスマホとパソコンに手を伸ばす。スマホの画面を見て小さく肩を落とし、藍はパソコンを開いて電源を入れた。
「あーあ。せっかくのバカンスなのに」
と恨み節を誰に聞かすでもなく呟く藍の隣に、柾は缶ビールを持ったまま腰かけた。
「……藍」
「んー?」
「日本に来てから、俺を探していたのか?」
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