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第14話

 急に話さなくなった藍をちらりと見て、先ほどまで熱心に働いていたから、休憩でもしたいのだろうと考え柾も話すのを止めた。  次第に通り過ぎていく車窓の景色に、藍は引き込まれていくかのように、窓の向こうの景色を凝視している。  そして息つく暇もなく新幹線から降りれば、藍の表情は先ほどと明らかに変わっていた。 「柾、ここって――」 「ああ。おまえが昔住んでた地域だ」  住んでいた場所の記憶が曖昧と言った藍の言葉がずっと引っかかっていた。  故郷は誰にでも懐かしく、かつての自分を思い出せる場所なのに、藍はそこへの行き方を知らない。ならば、藍をその場所へ連れていってやろうと思ったのだ。 「二度と来られないって思ってた……」  周囲を見渡す藍の瞳は輝いて、まるで子供に戻ったようだった。  あれもこれも、昔からあったよね、と先を行く背中は、自分の記憶と合致するものがあるたびに嬉しそうに振り返る。 「この家に、藍の家族が住んでただろ? いまは別の人が住んでいるけど」  かつて藍とその家族が住んだ一軒家の前まで来て、藍と柾は立ち止った。  藍はまるでそびえ立つ豪壮な城でも見上げるように、いつまでも見つめ続け、その細部に目を凝らしている。 「住んでた、ここに」  実感がこもった言い方だった。  当時新築だった藍の家は、多少色褪せはしていたが、それでも当時の面影を感じるには十分だった。 「僕は二度とこの家を見ることはないと思ってた」 「そうか。良かったな」  満足がいくまで藍が暮らしていた家の前にいて、その後柾は藍を連れて再び歩き出す。  辺りは陽が傾き始め、そろそろ夕方になると言う頃だった。  藪の前についた。 「覚えているか?」  といたずらっぽく柾が笑えば、藍は藪から目を離さないまま、何度も頷いた。  藪を掻き分けて、少し入れば、そこには懐かしいあの風景が広がっていた。  当時のように踏みしだいていないから、草の丈は高く膝ほどまであって、空間は狭く感じたが、それでもここはあの時の思い出とほとんど変わっていなかった。

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