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第15話

 秘密基地。  通り過ぎる風に草の香りを感じて、柾は昔のままの大きな石に腰かけた。 「少し荒れているけど、前のままだな」  西日が差しこむこの場所で、夜が更けるまで隠れて大人に怒られた。あの苦い思い出も、今ではただ懐かしくて。 「近所のおじさんがさ、遅くなった俺たちを心配して、懐中電灯で照らしたのを覚えてるか?」  確認するように周りを見渡していた藍は、柾の言葉に苦笑いをしながら、当時のように柾の座る石から離れたところの石に腰を下ろした。 「あのときも、ひどく怒られたよね」 「不思議だよな。こんな場所が、当時は」  特別だった。  ここにいるときは、大人の目から少しの間だけ離れられて、大人のいない不安感に少しどきどきしながらも、誰にも拘束されない自由を満喫していた。  ただの藪の中と言われればそれまでだが、少し開けたこの草むらの中が、当時はとても輝いていて、唯一無二の大切な場所だった。  それは、いまも――。 「柾、僕は向こうの生活でさ、度々この場所を思い出すことがあったんだ」  静かに話し出す藍の言葉に耳を傾ける。 「ルームメイトに話すんだけど、なかなか伝わらないんだ、この場所とか、この感じ。それで、向こうで生活するうちに、ここに行く道すじとか、どこで生活していたかとか、次第に曖昧になって――」 「ごめんな」  柾の突然の詫びに、藍は目を瞬いて対角線上に座る柾に視線を送った。 「おまえに手紙を書かなかったこと、電話もしなかったこと、悪かったと思ってる」  そんなこと、と視線を伏せる藍に、柾は続ける。 「寂しかったんだ、俺も。それで、早く周りに順応しようって、子供なりに頑張ってた」  風が二人の間を通り過ぎていく。  その沈黙に耐えられなくなって、柾は、ははと乾いた声で笑った。  照れたように、昔話だけどな、と付け加えて大きく息を吸い、目を閉じる。  運ばれてくる草の香り、遠くから聞こえる車や人が通り過ぎる音。そのすべてがあの眩しい日々を思い出させてくれる。 「……ここの風は、特別な気がするんだ。そこら辺の風と何ら変わりないのにな。だけど昔から、ここにあるすべてが、特別で秘密なような気がするんだ」  風を受けてかさかさと草がこすれ合う。  傾いた日差しはより一層赤みを増し、夕暮れの光が柾と藍を包みこんだ。  不意に立ち上がった藍が、柾の前まで歩いていって、その前に立つ。 「なんだよ……」  ただでさえ背が高い藍が目の前に立つと、なかなかの圧迫感がある。  やや気圧されながら藍を見上げれば、すっと伸びてきた藍の両手が柾の両頬を包んだ。 「僕の記憶が薄れる中でも、ここは僕の大切な場所であり続けた。僕は、あの頃から変わったけど、変わらないものもあった」  藍は片膝をつく。柾と視線を合わせて穏やかに問う。 「柾、ここに僕を連れてきてくれた理由はなぜ?」

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