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◇ ◇ ◇
『一斉はん。一斉はーん? ……一斉はーん! はよ起きてぇ!』
聞き覚えのない関西弁に呼ばれ、一斉はのっそりと起き上がった。
辺りを見回す。知らない部屋だ。
一斉がいるのは大きなベッドの上で、シーツは上質な布を使った誂えだと肌触りでわかる。というかデカ過ぎる。
植物柄の壁にはこれまた大きな窓がいくつもあり、外の木々を透かして太陽光がたっぷりと差し込んでいた。
デカい。それに広い。家具や小物もコテコテと凝ったデザインだ。
まるでお姫様の住むお屋敷のようだが、それよりは庶民的でカントリー。
白雪姫なんかが似合いそう。
会ったことはないが。
『おーい! 起きたと思ったのにまだ寝てるんかっ!? 一斉はんこっち見てぇ!』
「あ……?」
童話の部屋に紛れ込んだ小人になった気分でぼけっと宙を眺めていると、目の前で丸いフォルムのロボットがピョンピョンと跳ねた。
ピンポン玉サイズの黄色のボディ。
枝のような細く長い手が二本生えていて、腕立て伏せの要領で跳ねているようだ。
ボディには小さなモニターがついている。そこに映された電子的な両目は、怒りを露わにしていた。なんだこれは。
一斉には、関西弁を操るハイテンションなロボットの知り合いはいない。
しかもかなりコテコテの関西弁。
プログラムのミスだろう。
『やっと起きたでー! ほんま困ったマスターやなぁ。んま! キュートなワイは心も広いさけそんなん気にせんけど!』
「…………」
『いやノーコメントかい!』
イマイチ反応が悪い一斉に、ロボットは冷たいだのノリが悪いだのと文句を言ってコロコロと転がった。
そのコロコロも無言で眺める。
特に感想はない。
ひとしきりコロコロしてからどう足掻いてもノーリアクションだと気づき、ゴホンと仕切り直すロボット。
『ンンッ……ええか? ワイはペナルティヘルパーゴーストこと[ツミホロボシ]! 一斉はんの罪滅ぼしをサポートするキュートな球体型神式 駆動AIシステムでっせ〜!』
ロボット──ツミホロボシは、細く節のある機械の腕でコン! と胸、というか球体の下あたりを誇らしげに叩いた。
が、言われたところで「あぁそうか」としか言えない一斉である。
リアクション芸の才能が焼け野原な上に会話能力は並以下で素がローテンションな一斉とツミホロボシは、相性が悪かった。
『いや〜、ホンマはボーナス能力を初めて使った時に説明係で初登場するプログラムやねんけどな! 一斉はん能力使わへんねんもんな! エンターテイナーのワイ的に我慢できへんよな! 下手すりゃ能力忘れとる可能性すら感じたし孤独死するか思たわ!』
「……おう……」
『ちゅーかそんなことある!? 異世界トリップしたら普通すぐチート能力使うやろ!? それが若者やん! 少年の心やん! も〜ボケっとしくさってどうせグウゼンはんが甘やかすからこんな主人公向きやない受け身の極みみたいな男になってもうたんやろっ!』
「……おう……」
『ワイは甘やかさへんで! 刺青チラリズムしとるイカついお兄さんでも負けへんっ! 当システムはゆとらせへん教育を推奨しています!』
ピコピコガションッ! と電子音とともに管をまくツミホロボシ。
一斉は意味もわからず頷く。
もちろんちっとも理解できていないのだ。というか名前が長くて覚えられない。表情も変わらない。
自慢じゃないがコミュニケーション能力と思考速度の遅さには自信がある。言い分は要約してほしい。
(……? ジェゾ。……いねぇ)
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