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「──イッサイの語る言葉は全て、嘘偽りなく真実である」  遺級スキル[金の瞳]。  目を合わせるだけで相手の真偽を胸中ですら見抜く神遺物級の能力だ。  この世に二人とないその瞳を生まれつき両目に宿す皇帝は、ジェゾだけに聞こえるよう囁き、笑った。 「ドリンクバーとやら……あの能力の価値は、わかるじゃろう?」  ジェゾは静かに頷く。  温かいウインナーコーヒーや冷たいビールがなにもないところから器ごと現れる、一斉の不思議な能力。  一見すると、大して効果のないただ便利なだけの能力にしか見えない。  だが少し小賢しい者なら、誰もが卑しい使い方を考えるはずだ。  空間系の能力。  珍しいけれど物の収納、呼び出し、移動、固有結界などはもちろん、見た目より容量のあるカバンや倉庫などの道具も存在する。  しかしそれらはあるものを使い、新たに生み出すわけじゃない。  用意したものや近くに存在するものを引き寄せるか、決まったものを呼び出す。道具も入れた物しか取り出せず、防腐作用があっても温度までは保てない。  確かに、戦闘力は皆無だ。  熱湯を攻撃や防御に使えば敵を怯ませることができるくらいだろう。  なら、それ以外は?  戦やクエスト、遠征において水の輸送が不要になるのだ。  補給路が絶たれない。荷が軽いぶんはやく動ける。危険も時間も金も兵力もだいぶ浮く。  飲めるだけで何日生き長らえる?  一斉は拠点が壊滅しようが砂漠地帯で暮らそうが日照りが続こうが枯れない、まさに生きる水源になる。  なら必要なのは中身だけか。  いいや、残った器は立派な商品だ。  なんの装飾もない器だとしても、一斉一人でどこでも生産できて原価がかからないのだから安価な特産品にすればいい。しかも荷の負担が皆無である。  場所も運搬も一斉一人分で、他国に身一つ送り込み中身と器を売らせれば商品の税を払わずにずいぶん稼げる。  ほら、軽くこれだけ確実だ。  他にいくらでもあるじゃないか。  夢の広がる便利な能力。  使い方次第で軍事、商売、その他様々な分野で役に立つ可能性がある。  そしてなにより便利な使い方だってできるかもしれない。  望む飲料をいきなり作り出せる?  では毒殺しよう。きっと暗殺のプロになれるぞ、と。  国を率いる権力者は見過ごさない。  ──それは利を求める、悪人も。  もし一斉の能力が広まれば、一斉の能力に価値を見いだした欲深い者に四六時中狙われるかもしれないし、万が一には死ぬまで奴隷として飼い殺されることになるかもしれない。  ただのかもしれないだが……この世には他人など道端の蟻と等しく目的のためなら信ずる神をも利用し命の恩人をも殺す、(おの)が赤子にすら慈悲のない欲望の奴隷たちが確かに存在するのだ。  一斉が傷つけられたら。  そんな〝かもしれない〟を考えただけで、ジェゾはあらゆる残虐な報復の方法を瞬時に思考してしまった。 「ほほっ。獣らしい顔をしおって、イッサイに怖がられてしもうても知らんぞ?」 「…………」  ニヤニヤとからかい混じりに指摘され、深海のように光る夜行性の目元を無言でニャムニャムと擦る。  豊満な肉球付きでたっぷりとした毛皮に覆われた魅惑の前足が実は骨太くほとんどが筋肉で、本気を出せば猫パンチ一発で人の首が折れることなど、子猫は知らなくてもよいのである。 「本当に珍しいのう。ジェッゾが任務でなにかを拾って来おるのは初めてではないが、イッサイだけは仕立ての服を与え自ら付き添い目通りさせおった。礼儀を見せて……ワシが僅かなりと気に入るように」 「……イッサイは、怖がらないので」  暗に〝訳を話せ〟と促された。  全て見抜かれると言い逃れもできず、仕方なく短い言葉で終わらせる。 「怖がらない者はワシとてじゃろう」 「いえ……アレは、言ったのですよ。恐怖がなにかを知っているが、白い生き物のことは知らぬと」 「ふむ」 「知らぬが、(おれ)のことを知りたいから、白い生き物のことを教えてくれと」 「ふはっ!」  そう請われた自分がどう思ったかを察して笑われ、ジェゾは苦々しく黙った。

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