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 それから更に一ヶ月。  一斉は考えた。  そして喫茶店を開業するために、皇帝──ドヴを頼ることにした。  実はドヴ、時折夜中にお忍びでやってきては渋い顔をするジェゾをなだめすかし一斉にビールをねだっているのだ。  すっかりビールが気に入ったらしい。  立仲の意思を思うと不本意なオーダーなのだが、きちんと代金も渡されるので断る理由はない。  青い顔をしてお供に着いてくる皇帝専任近衛兵たちにはこっそりコーヒーを布教できたのでよしとしよう。  飲みやすいダッチコーヒー。  水出しの冷たいコーヒーを手渡すと、厳ついスキンヘッドの強兵とやや小柄だが機敏そうな金髪の少年兵は、ニヘッと笑った。  話が逸れたが、そうしてひょっこり現れる国のトップに、一斉は直でオネダリしたわけである。  いやいや、人任せではない。  一斉は考えた。ジェゾの言いつけは守る。なので考えた。とても考えた。 「店なら、いつでも来れんだ。アンタには、いつでも出す。樽で出す」 「ん?」  だから、こう言ったのだ。 「ほら……ドヴは、王様だろ? ジェゾのうちに、入り浸るのはよくねぇよ。でも、ビールは俺が持ってる。で、俺は、ジェゾの召喚獣だ。飼い主はジェゾだ。アンタが(・・・・)決めた。……なぁ、ドヴ。俺は、夜にビールを出したくねんだ。昼間堂々と、アンタがここに通えるならいいけど、さ。俺はジェゾのそばにいるし……アンタの命令で、さ」 「……ほーう」 「ドヴ。特権と、場所と、責任。この値で俺に、喫茶店をくれよ」 「足りぬと言ったら?」 「ゴホウビくれって、強請ってみる。……ジェゾが渋ってんのにビール出すの、ほんとはやなんだぜ」 「ワハッ!」  相変わらず下手くそな説明のあと、ほぼ変わらない表情を微かに拗ねさせてそっぽを向いた一斉に、ドヴは口元を押さえて盛大に笑った。──だって、一斉が脅すから。  自国の皇帝を、対面で、堂々と。  たかが召喚獣のくせに舐めた口を、と突っぱねるのは簡単だ。  だがたかが召喚獣だからこそ(・・・・・・・・・・・)、そうできないからドヴは笑った。  おっしゃる通り。  深夜を選び潜み訪ねようが、帝国であるこの国で神にも等しい皇帝がイチ家臣の住居に通う事実は都合が悪い。  他の家臣は不満を抱く。  悪いものは漬け込む。不吉と言われるジェゾ相手なら尚更だろう。  だがドリンクバーは一斉の能力だ。  されど一斉はジェゾの召喚獣だ。  それを決めたのはドヴだ。  家臣本人ですら不都合だと言うのにその召喚獣をマメに呼び出せるわけがない。会いに行くしかない。一斉はジェゾから離れない。飼い主はジェゾ。皇帝ではない。だから従わない。協力しない。だけどドヴだけの力じゃ平和的に夢を叶えることはできない。哀れな皇帝。  しかし、このジレンマはドヴの望みの結果だろう?  自分もジェゾも忠実だ。ドヴの都合でこうなっている。少なくとも自分はこんなことしたくないというのに。むしろ責任を取ってしかるべきだが、責めはしない。なんせドヴは皇帝だから。  ただこれ以上の都合を通すなら、それなりの褒美があるものだぞ?  ……まぁなんと言うか、なかなかに凶暴なオネダリである。  一斉が召喚獣でなく個の人間なら適当な役職でも与えて召し抱えれば済むものを、召喚獣だから主が必要で、その主を笠に命令を封じられた。  しかもこの男は異様に忠実だ。  それはもう異様に。  ジェゾを使って命じさせたとしても逆に機嫌を損ねるだろうし、強行しても忠誠心だけで拒み続け、むしろジェゾを困らせたと牙を剥くだろう。  当のジェゾには呆れられるのが目に見えている。  あの無二の友は手厳しいアカデミー教師のように叱るので怒らせたくない。  結局のところ、ヘソを曲げられると友情ごとうまい酒を逃すことになるドヴは一斉の提案を無下にできないわけだ。

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