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「ククッ……フハッ、ハハッいやぁほんに イッサイはエグいのぉ! か弱い老皇帝を虐めおって、命知らずとはよく言ったものじゃい!」
「? 優しめだろ」
「フッ、抜かしおる。目付きが猛禽のようじゃと思ったが、狩りの仕方も猛禽じゃ。カワイイ顔して追い込みは手練じゃな。どこで習った? ん? 実はデキェイ高原の馬賊出身か?」
「デキは知んねぇし、俺は別に普通だよ……ものの頼み方は、昔兄貴たちにいろいろ教わっただけだからな……」
「ん? 兄ら?」
「そう、何人もいて、得意なのも違って、でもみんな頭いいぜ……握った弱みの使い方とか……怪我させねぇ拷問とか……部屋のカギの開け方とか……あとは……」
「お主の兄らは黒魔術団かの?」
「や、普通の暴力団」
「よしわかった。そこまであからさまに暴力を趣旨に掲げる団は普通じゃねぇしその団員の兄を複数持つ環境でお前みてぇなドストレート男が育ったのは奇跡だ。よって以後我が国では暴力団の結成を固く禁じ、イッサイはそのバイオレンス能力をなるべく封じろ。オレに忠誠を誓う善良な全一般臣民は愛と平和でアホのように生きさせるんだよッ!」
「は? ドヴ?」
急に膝の上に乗せられガッシリと抱きしめられた一斉は、されるがままでポカンと固まった。
大変だ。ドヴが壊れた。
「荒れ狂う北海で育ったメダカかよ」やら「兄から学んだことが皇帝の脅迫て」やら「んでそれ使いこなすて」やら呟いている。口調も違う気がする。
バイオレンス能力と言われても、ヤのつく裏の人間であった一斉にとっては算数や国語より馴染んだスキルである。
──とまぁそんなわけで。
しばらくごねたあと、ドヴは結局一斉の提案を呑んでくれた。
皇帝が気兼ねなくビールを楽しめる専用個室を作る条件で、投資としてちょうど買い手がつかずにいた王都の端の物件を土地ごとポン。
ドヴの命令で一斉と契約したジェゾにははぐれ召喚獣への助成金が出る。
改築業者の手配と諸々の手続きはドヴが世話してくれるらしいので、それをその費用にあててもらう。
ドヴのおかげで無一文の一斉がトントン拍子に一国一城の主である。
工事が終わるまで数ヶ月かかるが、立仲の記憶から希望を取り入れた立仲をリスペクトする一斉による立仲のための立仲ライクな立仲喫茶店が完成するのだ。
まさかドヴ一人で解決するとは。
ジェゾに次いでお気に入りらしい一斉のためだろうか。
ドヴは一回り大きい男を膝に抱いてゴキゲンだった。初めはなにやら嘆いていたはずが、途中から満面の笑みを浮かべて工事の話をしていた。
もしかすると、抱かれた一斉が膝に中くらいのビール樽を二つばかし抱いていたからかもしれない。
もしくは、一斉が一抱えしなければならない大樽を足元に出現させて「毎月納品……するかもな」と兄貴じこみの誘い方を真似てみたからかもしれない。
なんにせよ一斉はドリンクバーの使いすぎで実はフラフラだったし、それをお茶菓子の用意で部屋を離れていたジェゾに帰還早々見抜かれコッテリ舐められた挙句、結局全てバレてしまいドヴ共々重厚な声で叱られたオチがつく。
こうして一斉は、なんともあっさり大きな一歩を踏み出したのであった。
どこかでグウゼンが「言っただろう? ワタシの加護があれば、たまたまの機会がやたらめったら多くなるのだ」とほくそ笑んでいる気がしたが、気のせいだろう。
気のせいだが、神殿があれば供物を持って祈りを捧げよう。
のたのたと契約書にサインをしながら、心に決める一斉であった。
「そういえば、ジェゾ」
「ん?」
「ジェゾが菓子取んに行ってる時、ドヴの話し方、違ったぜ。なんか……雑? 俺みてぇな、悪ぃカンジ」
「あぁ。陛下は元々そちらだ。皇帝になられた頃〝皇帝っぽいから〟と今の口調に変えられた。城外でプライベートとあらば肩の力が抜け、時折戻られる」
「へぇ……ぽいな」
「うむ。ぽいのだ」
「「素のほうが陛下 っぽい」」
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