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 数日後。 「サテンー! 謎ドリンクくれん」 「…………」  実家のような気安さでヌルリと侵入してきたネバルに、研究室でメニュー開発に勤しんでいた一斉はいつも通り脱力した真顔をやや顰めた。  いち早く一斉の中に逃げ込んだツーミンは脳内でげんなりしている。  そらそうだ。ジェゾに怯えていたくせにノコノコ再来して、そんなにクリームソーダが気に入ったのか?  おかげで一斉は酷い目にあった。ああ見えて厳しい飼い主なのだ。  怒鳴るでも叱るでも打つでもなく……うん。メンタルに来る。 「玄関以外、客じゃねぇんだぜ……」  一斉は軽くため息を吐いて、ニコニコと近づいてくるネバルを追い出さずドリンクバーを操作した。  とはいえ理解できず疲れるだけで、別に好きでも嫌いでもないのだが。  それに、ネバルのおかげでわかったこともある。  作ったドリンクを人に振る舞うと経験値が入るドリンクバーだが、ネバルとメロンソーダ……個人をイメージせずに作ったドリンクをセルフで飲まれても、あまり経験値にならなかったのだ。  つまり大量生産してフリードリンクだと配ったとしても意味はなく、人任せや機械任せは不可。  やはり徹底的に楽はできない。  能力はグウゼンと立仲に与えられたものでも、使い手は自分ということだ。 『一斉はん一斉はん。この子の前ではいきなりヒュンってやらんほうがええんちゃう? ほら、ジャガーさんらにドリンクバー使(つこ)たら変な顔されとったし』 「あぁ、わかった」 「なにが?」 「使い方」  嘘は言っていない。なんでもないと言って深堀されると困るのでちゃんと答える。なんとなく。  ジェゾの言いつけもツーミンの助言も一斉にとっては条約級だ。  一斉は棚からグラスを出して、シンクにたくさん並べたジェゾのボトル酒からいくつも注ぐフリをした。  うちの一瞬でグラスを置く。  同時にドリンクバーを使う。  手元にドリンクができあがったあともツーミン演技指導のもと、数度かき混ぜたり飾ったりする仕草を挟み、ネバルの前にトン、とグラスを置いた。 「ふひゃっ、これこれぇ……!」  ネバルの瞳がキラキラと煌めく。  一目見ただけで足がワクワクとはしゃぎたがる気分。一斉もそうだ。  飲んだことはなかった。  でも、飲みたいと思ったことがあったから記憶をさらってまごまご作った。  初めて作った時に立仲の声がこれの魅力をウキウキと語って、睡眠付与マックスの実験台になんて選ばなければよかったと密かに後悔したものだ。  これは、そんなドリンク。 「どうぞ、……お客さん」  ──メロンクリームソーダ。  背の高い足つきグラスを満たすエメラルドグリーンのソーダに、まぁるく浮かんだバニラアイスと真っ赤なチェリー。  砕いた小さめの氷はグラス半分。  氷が溶けて薄まることを考えた濃いめのシロップがグラスの底に帯を描いて滞留し、グラスひとつでグラデーション。プチプチと弾ける泡の音。  まるで小さな海のようなグラスを傾ければ、最後まで冷えた爽やかな甘みと刺激的なソーダが喉を潤す。  クリームソーダ。  代表的な喫茶店のソフトドリンク。

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