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いくらか胸がすく。普段は動揺すらしないのだ。わかりやすく眉をしかめて甲高い悲鳴を上げる一斉は珍しい。
「ネバル? ん、……おい」
けれど訝しげに振り向く一斉の顔は、すでにいつも通り。
ネバルは腰を抱いたままシビビヒビビと微弱な電流を送り続けているというのに、もう声も平然としているし逃げも暴れも崩れ落ちもしない。
抱いた腰がピク、ピクン、と時折跳ねているので、効いていることは効いているようだが。こいつ不感症か。
つまらない、と不貞腐れたネバルは、ふと視線のはじに優雅に読書をするモンスターを捉えた。
クールな猛獣、ジェゾだ。
ジェゾはネバルが能力を使う刹那こちらに視線をやったのだが、今は小難しい文献に目を落としている。
放任主義な飼い主め。
誰の飼い猫のせいでネバルが憂さ晴らしをしているのかわかっているくせに、素知らぬ顔で人任せとは。
ネバルに殺気がなかったからとはいえ、あまりにも勝手じゃないか。
ネバルはフン、と鼻を鳴らす。
ジェゾは一斉に興味がなさそうだ。
初めはただの奴隷だと思ったくらい、ジェゾは一斉に甘くない。
召喚獣と主だと知ってからも、特段縛らず口も出さず。
自由と言えば聞こえはいいほどに平然と好きにさせている。
実際はなかなかねちっこく構っているのだが、二人きりの時以外は特別甘くないジェゾはネバルの目には〝飼い猫にドライな冷たい主人〟と映る。
が、気にかけたということは、思うより所有者の自覚があるらしい。
そこでピーンと思いついた。
正面きっては勝てない最凶様を──煽り散らかしてやろう、と。
「なぁ、どした」
「ぃんやぁ〜? サテンの可愛い顔、もっと見てぇなってよん」
「なんで……目ぇ大丈夫か……?」
黒目が小さくて闇の深い眼光と傷のついた強面に可愛くなる瞬間があると思っているのか? と視力を疑う一斉。
ネバルはニマ〜っとヤニ下がり、腰に回した腕を滑らせ、腹筋やへそ辺りの際どい部分をなで始めた。
「テメェいい体してんなァ。戦士と比べるとまだ細い部類だけど、密度がわりとあるなん。将来有望」
「っ、……? まぁ、鍛えてっから」
「あーサテン勉強させると謎に体鍛え始めるよなん。意味わからんじゃ」
「頭使うと、体動かしたくなんだよ……んっ、……そこ、痺れるって」
キチッとしまわれていたシャツを掻き出して、直に手を入れる。
片手で肌をまさぐり、片手で尻をなでニヤニヤと迫るネバル。
もちろん電流は流している。
すると受け身な一斉は居心地悪そうに身じろぐ。抵抗はしないが、流石に大人しくしてもられないようだ。
「は……ん、……っ」
わかりにくくともあちこち電流を送るたびに眉間にシワが寄り、ピク、ピクッ、と密かに反応する。
チラリとジェゾに視線をやると、相変わらず読書中だった。
ネバルはフフンと得意になる。
そうだろうとも。冷静で落ち着いた大人ぶったジャガーには、こんなふうに一斉とじゃれ合うことなどできまい。
興味があろうがなかろうが、召喚獣が主以外に手なずけられて好きにされるなんて、主の恥である。
自分の従僕をこうも他人の手で悶えさせられては主の立場がない。
躾もできない主なのだと笑われる有り様だ。立つ瀬もなかろう。
機嫌のいいネバルはもっと見せつけてやろうとするが、一斉がなかなか甘い鳴き声をあげず、より大胆に嬲った。
「ぅ、っ……」
「なぁかわいい声だせよ〜ん。それとももっとシビレさせてやろうか?」
「俺声は元々あんま、っつか、っん、なに……もうわかんねって……」
「ふひゃ、サテンがちゃんとできねぇからお仕置き。テメェのココ、直にビリビリしたりしてなん」
言いながらベルトの少し下をエプロン越しにぐっと掴むと、一斉はキュ、と眉根を寄せて息を詰める。
尻をなで揉み割れ目に指を当てて尾てい骨にビリビリ。
同時にへそのくぼみをなぞって筋肉の凹凸を楽しみ、際どい股間のそばをぐっぐと押して脇腹をビリビリ。
「はっ……ネバ、ル……」
「んー?」
一斉はまぁまぁいい顔をする。
いつも通りの無表情に見えて、隠しきれない色が見える。
困惑と疑問と、もどかしさだ。
「ネバル、いつまで、っ……やんだ」
「ふひっ。……んーなー?」
なにごとにも温度が低く感情も声も荒げない影のあるこの男を、一声メロメロに鳴かせてやりたい。
唯一無二と慕う主の前で、恥ずかしげもなくイかせてやりたい。
寝取り願望でもあったのだろうか?
いいや、一斉がそういうふうに虐めたくなるフェロモン的なものを出しているだけな気がする。からかいがいがある。
「シビシビシビ〜」
「っ……どう、してぇの……?」
「ふっふっふ」
どうだ? 見ているか?
今にニャーンと鳴かしてやるぜ、と。
いつまで涼しい顔をしていられるか見ものだな、と。
チラチラとジェゾの様子を確認しながら煽り、ネバルは意気揚々とニヤニヤ笑みを浮かべて一斉をなでまわす。
無口で我慢強く扱いに苦労するが、このガタイで抵抗しないのだからいつかは陥落するだろう。
そのうちちょっとは艶っぽい反応を見せるはず。
そう思ってイキイキしていると。
「──イッサイ」
不意に、これまで視線もよこさず文献に目を通していたジェゾが、静かに子猫の名を呼んだ。
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