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第3話

「なにを、ッ!」 「ふ、あ……あぁ、なんて逞しい。こんなに太く立派で……はぁ、奥までしっかり届く……」 「ぅあッ」 「あ……!」  熱く滑ったものに逸物の根元まで包まれた瞬間、鬼が密着する下半身を見つめたまま一気に子種を吐き出した。腰を突き上げてはいけない、そこまで堕ちるわけにはいかないと必死に両手の爪を床に突き立ててはいるものの、いつもより明らかに長い逐情が続く。  鬼の腰はゆらゆらと(なま)めかしく揺れ、いきり勃つ男の証はぬらぬらと濡れているものの逐情した様子は見られなかった。だが、かすかに震えている下腹部からは感じ入っているように見える。 「ふふっ、熱く脈打ちながらこんなにも吐き出して……。それほどにわたしの中は、心地よいですか?」 「なに、を……ッ」 「素直になればよいものを。わたしはあなたに欲情した、あなたもそれに応えた、ただそれだけのこと。鬼だの人だのは関係ないじゃないですか」 「だ、まれ……ッ」 「そのように頑ななところにも惹かれますけどね。肉欲に鬼だの人だのは関係ありません。ただ獣のように本能に従うのみ。ほら、あなたのここも気持ちよさそうじゃないですか。んっ、ふふ、また大きくなった」  子種を吐き出したというのに、俺の逸物は一向に衰えることがなかった。それどころか鬼の中でますますいきり勃っている。  それがわかったのか、鬼はニィと笑って腰を回すようにゆるりと動き出した。そうされるとますます気持ちよくなり、自分でも腰を動かしそうになる。 (くッ! 駄目だ、鬼のいいように、されては、いけない……ッ)  俺は必死だった。鬼に呑み込まれないように、これ以上惑わされないようにと必死になった。  手籠めにされなかったことには安堵したが、だからといって鬼を犯してよい理由にはならない。交わりが自分の意志でなかったとしても、ここで少しでも腰を突き上げれば望んで鬼に屈したことになる。それは鬼退治に来た俺にとって耐え難い屈辱だった。 「あぁほらまた。唇を噛んだりするから、血が出ているじゃないですか」  不意に鬼の指が唇を撫でた。襲い来る快感に耐えようと無意識に噛み締めていたらしく、指先が触れた部分がチリリと痛む。唇から離れた白い指には、まるで鬼の唇のように赤い血が付いていた。 「いい香り」  鬼の言葉にハッとした。 「それに……やはり、とても美味しい」  俺の血がついた指先を鬼の真っ赤な舌がぺろりと舐める。妖艶にも見える姿を目にした瞬間、ゾッとするとともに体がカッと熱くなった気がした。 「あぁ、なんと心地よい香り。それだけじゃない。古酒のように芳醇で奥深く、それでいてねっとりした味わい……。いけない、鬼の本性が……、あぁ、いけない」  逸物を咥え込んでいる場所が大きくうねった。もっていかれまいと慌てて瞼を閉じ、くっと下腹に力を入れる。それでもぐねぐねと動く熱く柔らかい感触に、尻が何度も床板から離れようとするのがわかった。  ただでさえすぐに逐精しそうになるほど心地よいというのに、これ以上は本格的にまずい。そう思い、なんとか鬼から逃れなければと再び目を開いた俺はとんでもないものを目にした。 (髪が、伸びている……? それに、額のものは……)  短かった鬼の黒髪が、ゆらりと毛先を揺らしながらゆっくりと伸びていく。さらに、真っ白な額ににょきりとした角が一本生えているのが見えた。赤く艶やかに光るその角は、かつて書物で見た異国の獣の角のようにも見える。 「あぁ、あまりにも美味で、鬼の本性が抑えきれなくなりました」  同じ声だというのに、明らかに先ほどより艶を増したと感じるのは気のせいだろうか。それに見間違えでなければ、紅い唇の端から小さな牙のようなものがちらりと覗いている。 「よかった、萎えていませんね」 「……!」  鬼の言葉に、今度こそ愕然とした。そう、俺の逸物は鬼が鬼らしく変化(へんげ)するのを見たというのに、まったく衰えていなかったのだ。それどころかますます滾るようにいきり勃ち、逐精したいと訴えるように脈打っている。 「俺、は……」 「それも妖魔の血がなせること。いいえ、自我を保ったままというのは妖魔の力が完全には効いていない証。ということは、わたしそのものに欲情しているのですか……?」 「なにを、馬鹿な……!」 「あぁほら、それです。普通の人ならば反論することもなく、とっくに自我を失いわたしの腹の奥を獣のように犯しているはず。これまでどんな盗っ人も、そう、帝の第十親王だというあの者も、ただ獣のようにわたしを求め、わたしに子種を注ぐだけでした」  第十親王というのは、帝が俺に勅命を下す最後の一押しとなった皇子(みこ)のことだ。  皇子(みこ)は親王ながら早くに臣に下り、少し前から鬼退治に行くのだと盛んに話をしていた。周囲は「また戯れが始まった」と本気にしていなかったが、本当に鬼退治へと旅立ってしまい、その後都には戻っていない。  そうか、第十親王はこの鬼に堕ち、犯したのだ。その結果、都に戻れなくなってしまったに違いない。 「ふ、また逞しくなった。もしや、親王に嫉妬でもしましたか?」 「馬鹿なことを、……ぅッ」 「体はこんなに素直だというのに……。その胆力こそが妖魔の力を弱めているのでしょうね。それに鬼の本性を見ても萎えることのない逞しさ。やはり、あなたこそがわたしの求めていた存在なのかもしれません」 「ふざけ、るな……ァッ!」 「ふざけてなどいませんよ? さぁ、あなたも素直になってください。そうして……」  腰をゆるりゆるりと回し、ニィと笑った鬼が顔を近づけてくる。 「心と体のおもむくままに、わたしを犯してください」  耳に触れた熱い息と淫らな言葉に、必死に耐えていた俺の気持ちは呆気なく崩れ落ちてしまった。

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