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第31話

 俺が不在の間に勝手に進められていた婿入り話は、長兄が仕組んだものだった。母上はあまり乗り気ではないようだが、兄上に説得されて仕方なく俺に文を寄越していたらしい。  母上からは、俺の好きにすればいいとの言葉をいただいた。あとは話を進めている兄上をどうにかするだけだ。金花を連れて来いと言う兄上からの呼び出しを受け、今日こそはと拳を握る。 「だから兄上、何度も言うようですが、俺にはすでに妻がいるのです」 「まだ一人ではないか。関白家の男なら、あと二人や三人はいてもおかしくないぞ」  そういうのが嫌だから兄上たちの側には近寄らないようにしていたのだと、思わずため息をつきそうになった。  兄上たちには何人もの奥方がいるわけだし、子だって大勢いる。めでたくも姫が親王に嫁ぐことも決まり、下の兄上の長男には内親王が降嫁されることも決まったと聞いた。帝とそれだけ親密な間柄になったのだから、もはや俺の使い道などないだろうに、なぜ無理を押しとおそうとするのだ。 「とにかく婿入りの話はお断りします。それに俺は都を出て、その後はあちこちを旅して回るのだと文でも伝えたはずです」  屋敷に戻ってすぐに、婿入りの断りと都を出ることを文にして兄上に送っている。それでも先方が宴の用意をしているなどと言ってくるとは、どこまで俺を無視するのかと腹が立って仕方がなかった。 「別におまえ自身がいなくとも、婿入りさえ成立すれば構わないのだよ」 「……おっしゃっている意味がわかりませんが」 「わたしはね、六条殿と縁続きになりたいとずっと願っていたのだ。何度も話をし、ようやく六条殿も受け入れてくださった。それを、いまさらこちらから断ることはできないだろう?」  いいや、当人である俺が断っているのだ。それに理由ならちゃんとある。そもそも俺に断りもなく勝手に進めた兄上が悪いのではないか! 「俺は絶対に婿入りなどしません」  俺の言葉に兄上が「はぁ」とわざとらしく大きなため息をついた。 「六条殿と言っているのに、おまえはまだ何も気づかないのか。本当に武士(もののふ)の真似事ばかりで、我が弟ながら情けない」  俺への評価は言われ慣れているからいいとして、六条殿がどうしたというのだろうか。考えてはみたが、さっぱりわからない。  俺が知る六条殿というのは、親王を父に持ちながらも有力な後ろ盾がなく、甘んじて大納言の地位に就いているということくらいだ。関白家である我が家が、俺を婿にしてまで繋がりを得たい家柄とは到底思えない。  それに俺を婿に迎えるという末の姫はまだ十二になったばかりで、とてもじゃないが奥方の役割は果たせないだろう。 (そもそも俺には女童を愛でる趣味はない!)  勝手にあれこれするだけでなく俺の話を聞こうとしない兄上に、さらに苛々が募る。 「やれやれ、誠にこれが我が弟かと情けなくなる。そなたも、このような弟の側にいてはつまらないだろう? それに得にもならない」  兄上の視線がつぃと金花のほうへ向いた。その目には、やけに熱がこもっているように見えるのは俺の気のせいだろうか。 「得かどうかなど、考えたこともありません。わたしは妹に乞われ、妹の願いを叶えるために唐多千(からたち)の君様の側にいるだけです」 「それでも、せっかく都に滞在しているのだ。雅なことの一つも楽しめないのはつまらなくはないか? あぁそうだ、まだ華裳(かも)川の手前あたりには紅葉も残っているだろう。そうだな、そこへ連れて行ってやろう。この屋敷の庭は冬景色も素晴らしいから、また見に来るといい。ふむ、となれば正月の着物も用意させようか。その白い肌には、そうだな、葡萄染(えびぞめ)も似合うだろうし紅花で染めた今様色も似合いそうだ。あぁ、唐風の紫がかった色もよいだろうな」 (葡萄染(えびぞめ)に今様色だと? どこの奥方に贈るつもりだ! それに唐風など、すべて高貴な奥方に贈る小袿のことではないか! 兄上は一体何を考えているんだ!)  苛立つまま兄上を見れば、ねっとりとした嫌な熱を帯びた目で値踏みするように金花を見ていた。そんな兄上の様子に頭の中の何かがぶちりと千切れ飛ぶ。 「とにかく、婿入りは断固お断りします! それに金花は俺の側にとついてきたんだ。兄上の我が儘につき合わせるつもりはありません!」 「ほう、妹と同じ名なのか」  しまった、名のことまでは考えていなかったせいで、うっかり「金花」と呼んでしまった。どう答えたものかと視線をさまよわせていると、「紛らわしくて申し訳ありません」と金花が答えた。 「母がわたしを身籠ったとき、ありがたくも斎宮様より金の花という名を頂戴しました。母はそれを大層ありがたいと思い、妹にも同じ名を付けてしまったのです。斎宮様への思いが深く、こうして紛らわしい名となってしまいましたが、わたしも妹も大変ありがたいことだと思っています」 「いや、さすがは斎宮様だ。これほど美しく育つとわかっていらっしゃっての名だったのだろう。妹君もさぞや美しい姫に違いないと想像はしていたが、こうして見るとそなたも大層美しい。それに御所へ上がっても問題ない雅さも兼ね備えている」 「もったいないお言葉です」 「やはり弟の側に置いておくには、もったいな……」 「兄上! このあと母上に菓子を届ける約束をしていますので! これにて失礼します!」  兄上の言葉を遮ったのは、これで二度目だ。前回は金花の力で兄上まで惑わされてはたまらないと思い慌てて帰ったのだが、今回はどうにも腹の奥がムカムカして仕方がない。そのせいで、つい乱暴に言葉を遮ってしまった。  また嫌味を言われるのだろうなと思いながらも勢いよく立ち上がり、金花の手を引いて部屋を後にした。背後からは「関白家の子息がなんと乱暴な」といった言葉が聞こえているが、そんなこと俺の知ったことか! 「まさか兄上が男にまで興味を持つとは思わなかった。何人もの奥方を囲っているというのに、一体どこまで欲深いんだ!」  声を荒げながら牛車に近づくと、待っていた二十人ばかりの従者たちが驚いたような顔で俺を見た。ハッとした俺は、慌ててごほんと咳払いをしてから静かに乗り込む。続けて金花も乗り込み、行きよりもずっと静かに牛車が動き出した。おそらく俺の機嫌を考慮してのことだろう。 「皆、あなたが怒っていると怯えていますよ?」 「わかっている。みっともない姿を見せたとは思うが、どうにも苛々が収まらなかったんだ」 「わたしを思ってのことでしょう? ふふ、嬉しいこと」 「……本当は、誰にもおまえを見せたくないと思っているんだ。いや、おまえを信じていないわけじゃないぞ? ただ、いやらしい目つきで見られるのがどうにも苛立つんだ」 「嫉妬するカラギもかわいいですよ?」 「金花!」 「だって、嫉妬するほどわたしを好いてくれているということでしょう? それに、はっきりと婿入りを断る姿は本当に嬉しかったのです」  ふわりと笑う顔を見ていられなくて、視線を前簾(まえすだれ)へと向ける。金花は俺が気恥ずかしく思っていることに気づいているのだろう。ふふっと笑ったあと、やっぱり「かわいい方」と口にした。 「心配しているのはカラギだけじゃありませんよ? わたしだって、あなたが誰かに奪われやしないかと不安なのです」 「俺はそんな浮気性じゃない。それに、俺には金花しかいないと思っている。だから、鬼になることも決意した」 「えぇ、わかっていますとも。けれど、旅をしたからかあなたの男振りはますます上がりました。今回の話も、兄上様の(はかりごと)だけではないのではないかと、心配になってしまいます」 「男振りが上がった……?」  そんなことを面と向かって言われたのは初めてだ。褒められたということなのだろうが、戸惑いが強くどう返してよいのかわからない。  昔から俺はがさつだの乱暴だのと言われていて、公達らしくない髪や着物もよく注意された。当然、朝廷や御所で見目を褒められたことはなく、姫君の目に留まり文が届くなんてことも一度もない。顔立ちはいいのにもったいないとは屋敷の女房たちの言葉だが、太刀の腕前にしか興味がなかった俺にとってはどうでもいいことだった。  そんな俺の男振りが上がったなどと、金花の欲目のせいじゃないだろうか。 「その顔は信じていませんね?」  少し笑んだ目で俺を見る金花に「当然だろう」と答える。 「それに今回の件は、そういうことで持ち上がった話じゃない。そもそも俺が不在のときから進んでいた話だ。兄上が何を狙っているのかはわからないが、六条殿のほうは関白家に近づける絶好の機会だと思っているのかもしれない。だからこうも早く婿入りの話が進んでいるのだろう」  そうだ、俺の見た目が云々というのは関係ないはずだ。そう思いうんうんと頷いていると、「六条殿……六条……?」と金花がつぶやいた。 「なんだ? 六条殿を知っているのか?」 「いえ、ただ、どこかで聞いたような……。あぁ、たしかあのとき見たのも、六条辺りだったような」 「あのとき?」 「えぇ。鬼王に呼び出されて都に閉じ込められていたとき、何度か覗き見た舞の舞台が、たしか六条あたりだったかと」 「舞……、舞か」  そういえば、六条殿は舞楽を好んでいると聞いたことがある。幼い頃から学んだ舞は一者(いちのもの)と呼ばれるほどの腕前だと、兄上からも聞いたことがあった。 「たしか、秘曲を継承したと聞いたような」 「秘曲……。そういえば、覗き見たときもそんなことを口にしていましたね」 「……そうか、秘曲か」  ようやく兄上が俺の婿入りを強硬に進めることに合点がいった。  舞楽には秘曲と呼ばれる珍しい曲がある。本来、秘曲は舞楽の師を担う一つの家に一種類だけが受け継がれていく。ところが後壱帝(ごいちてい)が急な病で崩御した際、朝廷やその周りでいくつか揉め事が起きたせいで、秘曲を受け継ぐべき舞楽の家が一つ無くなってしまった。その家に伝えられていた秘曲はその後、たしか六条殿が受け継いだのではなかっただろうか。 「六条殿は別の舞楽の家に子息を婿入りさせていたはず。後継ぎである子息が秘曲を継いでいれば、六条殿は二つの秘曲を手に入れたも同然か」  秘曲は帝の御前で演じられる曲で、それを演じる者は帝に舞曲を指南することができる。つまり、帝の舞の師匠というわけだ。  舞は貴族だけでなく帝にとっても重要なもので、神事や宮中行事、それに高貴な血筋のたしなみとしても長年大事にされてきた。そんな舞を教える師匠となれば帝に意見することもできる数少ない立場で、太政大臣や関白のように表舞台ではなく、私生活での発言権が大きい立場とも言える。 「……なるほどな」  関白に返り咲いた兄上は、今後を見据えて舞楽の面でも帝の懐深くに入り込もうと考えているのだろう。その手段として舞楽、それも秘曲を手に入れようとしているのだ。しかも二つ同時に手にするために、それを持つ六条殿に目をつけたに違いない。  まずは俺を使って親族となり、後々生まれる子なりを六条殿の跡取りにして秘曲を伝えさせ、その子を関白家の娘婿として迎え入れればいい。 「そういう政争の類は、俺に関係ないところでやればいい。俺はそんなことに関わるつもりはまったくない」 「兄上様は、いろんな意味で精の強い人なのですねぇ。さすがカラギの兄上様と言うべきか、カラギ以上と言うべきか」 「俺は兄上とは違うぞ! いや、それより精が強いとか、俺以上だとか、もしや……」 「ふふっ、カラギ以外に興味はないと言ったではありませんか。いくらカラギと同じ血が流れていると言っても、兄上様とカラギはまったく違いますよ?」 「それならいいんだが……」  駄目だ、金花が少しでも興味を惹かれるのではと思うだけで苛々としてしまう。金花は俺のものだと大声で叫びたくなる。 「カラギのことは、精以外も好いているのです。鬼を前にしても立ち向かおうとする胆力も、逞しい体も、涼やかな目元の顔立ちも、すべてがカラギだから惹かれた。ね、この大きな胸の肉など、いくら揉んでも飽き足りないほどです。……ふふっ、着物の上からも尖った乳首がよくわかる」  急に胸を揉みしだかれ、あっという間に乳首が膨らんでしまった。それもこれも、普段から金花がしつこく摘んだり噛んだりするからだ。  前に金花が「胸が着物に擦れて」などと言っていたが、俺だって似たようなものだ。鍛錬のときもうっかり気を抜くと擦れた乳首がじんわりと熱を持ち、疼くようにビリビリとすることがある。そうなるとあらぬところまで熱を持って……、待て金花、こんなところで袴の中に手を入れるなと言ったではないか……! 「あっという間に逞しくなるここも、とても好いていますよ? ふふっ、こうしてすぐに先を濡らしてしまうなんて、本当にかわいい方」 「待てっ! こういうことは、牛車ではするなと、何度言えば……っ」  慌てて手を止めようと金花の腕を掴んだが、クチクチと先端を指先で撫で回されて力が抜けてしまった。 「大丈夫、先ほどの怒るあなたを見て、皆近寄らないように牛車を動かしています。声をひそめていれば、気づかれることはありません」  耳元で囁かれ、俺は一瞬にして金花の手に落ちた。  くちゅくちゅと濡れた音は、どちらの逸物から漏れているものだろうか。いや、これは金花の尻の奥から聞こえる音かもしれない。もしくは二人一緒に擦っているからか。  中途半端に袴をはだける俺に跨るように身を寄せた金花は、両手で俺と自分の逸物を握り熱心に擦り続けていた。壁にもたれながら座っている俺は腰を動かすこともままならないが、膝立ちの金花は少しずつ位置を変え、動く速さを変え、俺の逸物に自分のものを擦りつけるようにしながら、さらに両手でぬちゅぬちゅといじっている。  その音に目眩を感じながらも両手で金花の尻を掴んだ俺は、左手で尻たぶを割り開き、右手を尻の奥へと忍ばせた。そうして濡れそぼる縁を撫でたり少し指を入れて擦ったりと、できうる限りのことで悦ばせようと試みる。 「あぁ、あなたの逞しいものが、わたしのに触れて、ん……、こんなにぐっしょりに……、ぁん」 「こっちも、とろとろと、蜜を引いているぞ?」 「それは、ん、昨日、あなたがたっぷりと出した、ぁっ、子種が、下りて、あぁ」 「子種だけじゃ、ないだろう……?」 「ん……っ、そんな、意地悪を、……ぁんっ」  声を押し殺しながらの行為だからか、やけに興奮して体が熱い。擦れ合う逸物はこれでもかと言わんばかりに天を向きビクビクと震えていた。顎を引いて股を見れば、あまりにも淫らな様子に頭にカッと血が上る。  俺の逸物は赤黒く、さらには筋があちこちに浮き出ている。それに比べて金花のものは淡い色合いで、紅色の先端の穴がくぱりと柔らかく開く様子など同じ逸物とは思えないほどだった。  俺の逸物はすっかり滑っていて、それを拭い取るように金花の逸物がスリスリと動いている。とくにカリが擦れ合うときなど、下腹にぐぅと力を込めなければすぐさま子種を吹き出してしまいそうなほどの心地よさだった。  俺は負けじと尻に二本の指を差し込んだ。すると金花の背がぐいっと反り、余計に逸物同士が強く擦れ合う。おまけに指をきゅうきゅうと締めつけてくるものだから、思わず逸物で中を擦っているかのような錯覚さえ抱いた。そう思いながら腰を揺すると、ますます金花のものと擦れ合ってたまらなく気持ちがいい。 「あぁ、()ぃ」  尻に入れた指先に、コリコリとしたものが触れた。これは金花がたまらなく鳴いてしまうところだ。そんなところを牛車の中でいじっては、外に金花のかわいい声が聞こえてしまう……。そう思っているのに指はコリコリとした部分を捉え、くぃと押し上げるように撫でていた。 「ひっ」  思ったとおり、金花の体がびくんと跳ねた。それに気をよくして、コリコリした部分を指で挟むように摘んだ。 「ひ、っ、そこ、はっ。だめ、()すぎる、から、だめ……っ」 「知って、いる。あぁ、指でも、気持ちが、いいものだな、」 「ぁ……っ! だめ、おねがぃ、だから、そこは、……ぁ、ぁ……!」  いつの間にか金花の左手は逸物から離れ、俺の肩をがしりと掴んでいた。ぎしぎしと骨が軋むくらいの力を感じるのは、それだけ()いからだろう。せっかくなら、このまま逐情させたい――俺は思うままに指を動かした。  コリコリとした熱い肉をきゅっきゅっと指で挟み、今度は膨らんだそこを撫でるように指の腹で擦る。ますますふっくらしたそこをとんとんと叩くようにし、また指で挟んでくぃくぃと動かす。  そのうち金花の体がブルブルと震え出し、尻を後ろに突き出すようにもたれかかってきた。もうそろそろだろう、そう睨み、頬を擦り寄せるようにしている金花の耳を、かぷりと噛む。 「ぁ――……!」  小さく声を上げ、一際大きくぶるりと体を震わせた金花が逐情した。その瞬間、金花の右手がきゅうと両方の逸物を握り締める。おかげでトクトクと子種を吐き出す金花の逸物の様子が俺の逸物にまで伝わり、なんとも淫らな気持ちになった。  尻に差し込んだ指はぎゅうぅと締め上げられ、少し緩んだところで引き抜けば、ちゅぽんといやらしい音がした。 「屋敷に戻ったら、今度は俺のものを食わせてやろう」  そう言ってまだひくつく縁を撫でれば、俺の逸物を食らう瞬間を思い出したのか、余計に縁がくぱくぱと動き出す。 「……あなたは、たまに、とても意地悪、ですよ」 「そういう俺は嫌か?」  背中を撫でながら問いかけると、ふふっと耳に息がかかった。 「どんなあなたも、好いて、いますとも」  あぁ、たまらないなと心底思った。美しく淫らで、どこまでも俺を好いてくれる金花。それに負けないほど俺も金花を思っている。 「俺はまだ子種を出していないんだ。ここに、たっぷりと出したい」  そう言って縁を撫で尻たぶを撫でれば、金花が小さく「ぁん」と鳴いた。

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