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第14話 「顔、見たい。ダメ?」☆
最近、お勤めでのプレイの内容が変わってきた。
省吾が積極的になってきた。
それはいい事なのだろうが、ミロはわずかに不満も抱いていた。
ミロのものは舐めてくれるのに、省吾のものに触れようとするのを嫌がる。
服を着たまますることが多くなり、後ろから入れるのを希望するようになった。
今もそうだ。
「あっ、んんっ、そこ、気持ちいいっ」
ミロの上で省吾は腰を上下に動かしあえいでいる。背中を向け、ローブで体を隠しているものだから声と仕草で様子を推測するしか出来ない。
ミロは省吾の腰を掴むと、力を入れて自分の腰に押し付ける。
「あぁっ!」
びく、と省吾の体が跳ね、顔が天井を向く。達しているのだろう。ミロは心の中に満たされないものを感じながらも省吾の様子を観察する。ミロのほうはというと、まだ屹立したまま省吾の中に埋まっていた。
彼が熱に蕩けた顔を見て嬉しく思うようになったのはいつ頃だろうか。
毎日一緒に鍛錬をしている彼の蕩けた顔を見れるのは自分だけだという優越感を感じ、もっとその顔を見たいと思うようになっていた。
セックスの間の省吾はかわいい。
いつもは凛々しく整った眉を八の字に曲げ、必死にミロに手を伸ばしてくれていた。乳首をこねるとまるで猫のように甲高い声をあげ、羞恥で顔を赤くする様子をもっと見たくてついついそこばかりを攻めてしまった。
今はというと、そんな顔は見せてくれないし、こうして背中越しにしか抱かせてはくれない。
「イった?」
後頭部に向かって尋ねると、省吾はコクコクと頷いた。
「ごめん……、ミロ、まだイってない」
振り返り、やっとあった目は快楽で蕩けていた。好きだった蕩けた瞳を向けられ、さらに硬くなってしまう。
「今度、俺が動いてもいい?」
基本的にお勤めの間は省吾の意志が優先される。彼の満足を得るための行為なのだから当然である。
「ん……」
省吾が首を縦にふる。
もしも彼が今日はこれで終わりだと言えばミロはすぐに退出しなければならない。
省吾を初めて抱くことになった際に、ノアと団長に呼び出され代々続くというマニュアルを渡された。
無理はさせずに、ヒジリ様の満足を何よりも優先させること。
彼の体の調子を常に念頭に置くこと。
異世界に飛ばされて不安だろうから、彼のメンタルケアに気を配ること。
他にも沢山あるが、とにかく省吾を優先させろという文言が並べられていた。
ミロはゆっくりと省吾の体を押し倒す。
「顔、見たい。ダメ?」
耳元で囁く。省吾は振り返り、迷子の子供のような視線を向けてきた。
ホっとしてミロは省吾を仰向けに寝かせると、彼の腰を掴む。
やっと省吾の顔が見れる。
快楽に蕩けた彼の顔に心に喜びが広がり、ミロは必死に己を律した。
脳内にマニュアルの最後の方に記載された文言がちらつく。
ヒジリ様を愛してはならない。
愛してしまえば、彼彼女らに執着してしまう。そうして、ヒジリ様の寵愛を求めて暴走し、牢に入れられた人間は何十人と存在する。
その文章を見た際にミロは実感が湧かなかった。
男性同士なのだ。ミロはこれまでに女性しか抱いたことがなかったので他人事だと思っていたのだ。
ノアもニコニコしながら「ミロならそんな事ないだろうし、安心だねぇ」と言っていた。彼は幼馴染でミロの恋愛遍歴はすべて知っていたので、その上の言葉なのだろう。
確かにミロはこれまでの恋愛で相手にのめり込むようなことはなかった。
優しく抱くし、相手のしてほしい事を察して動くことが出来る。その洞察力で小隊長にまで上り詰めた。おかげで別れた後もミロに対する評判は悪いものがなかった。
だから、今回の勤めも週に一度、特別手当がもらえる労働としてしか思っていなかったのに。
潤んだ省吾の目に見つめられ、彼に口づけたい衝動が湧き上がる。
「キスしていいか?」
尋ねると、コクコクと頷かれたものだからミロは口を開いて省吾の口内に舌を入れる。ぬるぬるとした感触で上も下も溶け合うと何とも言えない熱い気持ちが心臓を焼く。
「っぁ……、んぅっ……」
合間合間に聞こえる省吾の喘ぎ声に頭が馬鹿になっていく。規約もなにもかなぐり捨てて彼の体を貪りたい衝動に必死で抵抗した。
ぎゅう、と省吾の手が背中に回される。必死にしがみつく腕が健気に思えて、ミロはたまらず省吾の中で出していた。
毎回省吾は終わった後気絶するように眠りに落ちる。
本来ならばジェドを呼んで彼の体を清めさせれば終わるというのに、ミロは自分で盥に水を組んでくると、省吾用の高級な手ぬぐいで彼の体を拭き清めた。
汗だらけになったローブを脱がせ、腹を確認する。ゲージはしっかり満タンになっていた。
よかった、と安堵する。
昔はこれで自分の勤めが果たせたからだと思っていたが、今は違うことにミロは気がついていない。
もしも省吾のゲージが今日一日で溜らなかったら明日は違う人を呼ばれるかもしれない。その可能性が今回はなくなった。
彼の唇に触れるだけのキスをし、額を撫でる。そうして、ミロは省吾の寝室を後にした。
それから三日後の鍛錬終わり、ミロは部下であり友でもある男たち数名に話しかけられた。曰く、久しぶりに飲みにいかないか、と。
彼らと飲みに行くと毎回最後には娼館へと行くことになる。どうしようかと思ったのは一瞬で、すぐにミロは快諾したのだった。友人と飲みたい気分だった。
酒を飲んで、すっかりいい気分になって娼館へなだれ込んだ夜、ミロは娼婦の前で愕然と自分のモノを見つめていた。
ピクリとも反応しないのだ。
「どうしたの?」
娼婦が不思議そうに小首をかしげる。金髪で緑の瞳の彼女はミロの馴染みの女性で、男女というよりは友達のように話すことが出来、サバサバとしていたのでミロは気に入っていた。
「あー、酔ってるっぽい」
ミロは苦笑する。彼女はんー、と人差し指を唇に当てた。
「舐めてあげようか?」
にぃ、と笑うと上目遣いにミロを見る。
ベッドの上でにじり寄り、ミロの股間に手を這わせた。ぞくり、と背中に悪寒が走る。
「あ、いや……」
「遠慮しないで。私、うまいから」
快活に笑うと彼女は白く華奢な手でミロの竿を掴むと優しく握り上下にしごき始めた。
「相変わらずアンタのって勃ってなくてもおいしそうなんだよねぇ。早く中に入れたい」
言いながら女は人差し指で亀頭をぐりぐりとなでながら、ほかの指で竿を刺激する。同時にもう片方の手で袋を揉み、快楽を与えてくる。手慣れた動きは巧みそのものだったが、こんな時なのにミロは省吾の上手とは言い難い愛撫を思い出していた。
自分も同じものがついているのだから勝手はわかっているだろうに、照れからなのかいつまでたってもうまくならない。必死に口を使って奉仕してくれて、生ぬるい口内に刺激されてやっと硬くなったら、嬉しそうにはにかむ。その笑顔をかわいいと思う。
「……っ」
ぴくん、と自分のペニスの硬さが増してきた。女は楽しそうにちゅ、ちゅ、と亀頭にキスをする。
「よかった。これなら楽しめそうだね」
「……あー」
誰を思い出したかは到底口にはできない。
けれど結局、中に入れる段階になり、柔らかい肌に対する違和感からミロは挿入することが出来ず、気にしないで、と残念そう に笑う馴染みに見送られて娼館を出ることになったのだった。
厚い雲におおわれ、少しの光しか届かない月を見ながら省吾は一人兵士宿舎に帰る。他の友人達は今頃きっとお楽しみ中なのだろう。
この国では兵士はおおむね宿舎に入る。そうして、緊急時に外に出られるように待機するのだ。
ミロはまっすぐ宿舎に戻る気になれず、ノアのいる宿舎を尋ねる。彼も城に仕えているため、城の中に宿舎として部屋を与えられていた。
彼の部屋のほうがミロたち兵士の宿舎に比べて倍ほど広い。ノックをして入るとノアは部屋にいた。
「あ~、ミロ〜。どうしたのぉ、こんな時間に」
ノアは帰ったばかりだったのだろう、まだ城仕え用のローブを身にまとっていた。
「いや、なんとなく。今、いいか?」
二人は幼馴染であり、こうしていきなりミロがノアの部屋に来ることはよくあることだったために彼はあっさりと頷いた。
「うん。ちょうど朝フルーツケーキをもらったばかりだったんだぁ。一緒に食べよう」
言うと彼は紅茶を入れ、フルーツケーキを切って皿に盛る。パウンド型のケーキにブランデーにつけられた果物が複数入っていた。
ほのかにブランデーの味がする生地を口の中で咀嚼していると、そういえば、とノアが口を開いた。
「省吾とうまくやっているみたいだねぇ~」
彼の口から出た名前にミロはむせそうになる。
「あー……、まぁ」
「毎回一晩でゲージが満タンになってるの、歴代のヒジリ様でも珍しいらしいねぇ。よっぽど体の相性がいいのかなぁ」
ニコニコと続けるノアに気恥ずかしくなり紅茶を口に含むことでごまかす。
「でも、ミロ、大丈夫? 負担になってない?」
ノアは真顔になり、ミロに尋ねる。彼はこうして会うとお勤めに対して負担になっていないか気にかけてくれている。
「別に。特別手当ももらえるし……」
返して、けれど先ほどの娼婦との事を思い出しノアのほうを見る。ノアはミロに見つめられ、何事だろうかと首を傾げた。
「なぁ、お前が毎回飲ませてくれる薬なんだけど……」
お勤めのある日、ノアは毎回ミロに薬を渡していた。精力剤なのだという。実際、飲めば興奮してガチガチに硬くすることができた。
役目に対して緊張し勃たない人が毎回複数いたために今ではお勤めの際には飲むことが慣例となっている。
「あれって、なんか副作用とかあったりするのか?」
「副作用!? ミロ、体の調子が悪いの!?」
ぎょっとしたようにノアは前のめりになる。当たり前だ。彼は製作者なのだ。自分の作った薬に不備があるかもしれないと知れば気になるのだろう。
「いや、確定したわけじゃないけどさ。……飲んでない状態では勃ちが悪くなるとか」
「え!? そうなの!?」
どん、とノアは立ち上がりミロのほうに近づく。
「ミロ、EDになっちゃったの!?」
「そうは言ってねえだろ!」
「でも、勃起しづらいんだよね?」
「……まぁ」
十年来の幼馴染相手にミロは耳まで赤くなりそっぽを向く。
「おかしいなぁ。そういう成分は入っていなかったと思うんだけど……。どうしよう、念のためしばらく服用をやめてみる?」
「え、んなこと出来んのか?」
「うん。その間別の人が省吾の相手をすることになるけど……」
「…………」
嫌だと思った。
ミロが目を細めたのをどう思ったのか、ノアは明るく言う。
「大丈夫だよ! きっと省吾も言えばわかってくれるって!」
「絶対言うな」
思わず低い声を出す。今度はノアが目を丸くする番だった。
「あ……、いや……、特別手当とか、助かってるし」
本当はそんなことではないことにミロは先ほど気が付いた。けれど、到底口には出せない。
特別な感情を抱いていると知られたら役目を外されてしまう。
「そっかぁ〜。ご両親に仕送りしているんだっけぇ?」
「あ、ああ。だから……」
「了解〜。でも、心配だから俺も調べてみるねぇ」
にっこりとノアは笑う。ミロは力ない笑みを返すことしか出来なかった。
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