7 / 8
第6話 本編
「……顔、」
そう言われて素直に顔を上げると理央さんから噛み付くようにキスされる。
(……少し慣れたのかな)
入り込む舌を絡ませながらもう何度目かわからないキスをしてそんなことを思った。
一度受け入れたら後は勢いに流されるがまま、俺達二人ともこの空気に耽っていた。
そういや男同士ってどうするもんなんだろう、と一瞬そんな考えが過ぎったが、そもそも女の子とのセックスだって考えながらやることなんて殆ど無い。衝動的にこういう事になったけど結局いつもやっているようにやるしかないだろう。
(とはいっても人のチンコなんて、擦るどころか触ったこともなかったしなあ)
自分でやるようなのでいいのかね、と先程から理央さんのそれを手で扱きながら考えているのが少々アホっぽい。
相変わらずところどころで体が引き気味になる理央さんに内心苦笑しながら少しずつ反応し始める理央さんのチンポに気を良くして、手を早めた。
最初、理央さんはというと目元を赤くしたまま、俺のなすがままにされていた。ガチガチに固まっている彼もそれはそれで可愛らしかったのだがずっとそのままじゃ、こちらも少し反応に困る。
しょうがないとばかりに何度かキスを繰り返していけばようやく少しこの状況に慣れてきたのか、彼の方からも舌を絡める程度には緊張は解れたようだ。
ただ、相変わらず体の力は中途半端にしか抜けていない。
理由はなんとなく分かる。決して理央さんが女性との経験がないからとかそういう訳じゃないだろう。というか多分この人、女性経験はちゃんとあると思う。多くはなさそうだけれど。
……キスが上手い人なんだな、というのに気づいたのはもう何度目のキスだっただろう。
じゃあこの初な反応は何故なのかといえば、男同士の行為だからというのももちろんあるだろうけれど、どちらかというと今の状況を見ている限り、こういうプライベートな自分の状態を人に知られるのが苦手だからじゃないだろうか。
改めて理央さんの普段のとっつきにくさを考えれば想像に難くないことだ。
俺はどちらかと言えばオープンな方だからそういう話も平気だし、この状況も今となっては結構乗り気ではある。けれど理央さんは慣れていないんだろう。普段そんなに親しいわけじゃない俺に自分のこういう顔を知られるのも、自分が相手の俺のこういう姿を見るのも。
さてさて。そんな事を冷静に考えつつだんだんと主張の激しくなったチンポを扱きながらそんな事を考えを巡らす俺のなんとシュールなことか。
まあ気づかれていないようだけれどと相変わらず視線がさ迷っている理央さんを眺めて、ふと意地の悪い事を思いついた。
軽く唇の周りを舌で湿らせてから、ちゅ、と先端を舌で包むように半勃ちのそれをゆっくり口に咥えてみた。
「っ! おい……っ」
先程までの感覚と違うことに気づいたのか、理央さんは声を荒げたがそのまま黙りこんでしまう……というよりも声を飲み込んだ、と言った方がいいかもしれない。
人のチンポなのに案外抵抗感はなかったな、と自分の行動に対して思うが、そもそも俺にそんな物があればこんな行動に出るわけないか。
咥えたそれは、やはり大きく全て口に含むには多少苦しかったがなんとか舌を這わせてみた。
カリの部分から、裏の筋へ。じゅ、と吸い付けて上下に動かしてみる。亀頭のギリギリまで離してまた喉奥までゆっくりと。
ああ、今まで咥えさせてきた女の子達、君らは凄いわ。俺のこんな大きくないけど顎疲れるねこれ……。
喉奥まで咥え込むと流石に異物感から吐きそうにもなるが、これはこれで少しいいかも。そう思ってからつくづく自分が他人とは違う方向性をいっている事に内心で苦笑した。
「一、もういい、いいから、」
「んァ、そろそろっすか?」
呼ばれた声ににゅる、と口と舌を離すと、唾液が垂れてしまう。手のひらで口の周辺を拭いつつ返事をすると、口を離す時に尿道へ舌先を掠めたせいか、理央さんの太ももが少し震えている。
「出そうなの? 理央さん、俺のフェラで」
……とことん俺、意地が悪いかも、なんて。
理央さんがもう達しそうなのなんて、分かりきっているのについ尋ねてしまいたくなるのだから。
案の定黙ったままの理央さん。今更照れたところでどうにもならないのに。
(あー、ホント可愛いなァ!)
くつくつと笑いながら、返事を待たずにまた咥えてやる。今度は先程より強めに吸うことを忘れずに。
「っ……」
数度また同じようにしばらく続けていくと小さな呻きが聞こえ、咥えたまま視線を上げた。すると
(あ、)
視界に入った理央さんの表情に直ぐに体が反応できず、一瞬息が吸えなくなる。……遅れてきた中途半端な吐き気をなんとか耐えるとそのまま、生温い液体が口いっぱいに広がった。独特の青臭さと粘り気。ああ達したのか、と遅れて気がつく。
「……んん、」
しまった、口の中に収まり切らない。唇から漏れた精液を手の甲で拭いながらテッシュを探そうと顔を上げると、
「……」
あの真っ赤な顔から、そのまま血の気が引くように反転している理央さんと目が合った。
「おまっ……、馬鹿! すぐ出せ!」
事の次第に慌てたようにティッシュ箱を引っ張りだす理央さん。
……その表情には先ほど見たあの時の表情はもう残っていなかった。それがほんの少しだけ俺には残念で、名残惜しい。
達する寸前の理央さんの顔は今まで見たどの表情とも違っていた、から。
(男に綺麗、って言葉なんて似合わないけど)
あの瞬間の彼は確かに綺麗、だったから。
かつて、彼が抱いてきた女達もあの表情を見ていたんだろうか。そうと思うと少しだけ胸が騒ぐ。
「ほら、あったから早く出しとけ」
俺の思いになんて気づくこともなく、理央さんはようやく見つかったらしいティッシュ箱を俺の目の前に差し出した。
……ひらりと出ているティッシュの紙を眺めながらふと思いつく。
(……さすがにここまではする気なかったんだけどなー……)
ざわつく胸を気のせいだと思い込んで口の中の液体を舌で泳がす。粘着質なそれは舌に張り付くような苦味を残してつい眉をしかめた。
そういや、俺も女の子にさせたことなかった、かも。
自発的にする子は居たといえばいたけど、俺自身としては顔とか尻とかにかける方がどちらかと言えば好きだ。飲ませたって別に楽しいことなんかないし。
(あ、そうだ。次は顔にでもかけてもらお)
その時の理央さんの顔はきっとまた見物だろう。
ぼんやりとそんな事を思いながら一つ、喉を動かす。
ごくり。
そんな音が聞こえるように大げさに喉を動かすと口の中のそれを唾液で飲み干した。それも理央さんの目の前で。
喉が、焼けそうだな、と張り付く青臭さに顔を顰める。それでも口の中が空になるのを確認してから、
「……も、要らないっす。それ」
丁寧に口の端に着いた精液まで、指で舐めとりながらそう言う。当の理央さんは唖然としたような表情をしてから、再び顔を赤面させた。よし、満足だ。
しかしこれ、よく飲む奴いるな。思っていたより飲みづらいし、まずいったらない。
「……信じられん」
「いや、目の前だったでしょ。信じて下さいよ。あ、そうそう」
「何だ」
まだ口を拭いながら下を向けば、理央さんは焼酎を割るのに使っていた水を律儀に二人分コップに注いでいた。口直しとばかりにありがたく頂いてから、さて、と口を開く。
「……ん、よし。ねえ理央さん、理央さんは俺のケツに入れたいんですよね?」
俺の言葉に理央さんは盛大に固まった。
……ここまで様式美だと女の子と違って楽ちんだろうなァとしみじみ思う。今日びここまでこういう話で動揺する女の子っているのか知らないけど。いやきっといるはずだ。俺は会ったことないけど。
「お前、何言って……!」
まだ、よく分かっていなさそうな理央さんに畳み掛けるように俺はもう一言、言う。
「いや、重要な問題じゃないですか。だって俺たちまだ決定的なこと、何にもしてないし」
そう付け加えるとようやく理央さんも俺のその言葉で気づいたようだ。理央さんの反応が楽しくてそっちばっかりかまっていたから、忘れていた。
「やめるなら、今のうちかもしれませんけどォ……どうします? このまま俺のこと抱く?」
ケラケラ笑いながら理央さんの反応を待つ。
キスとフェラ。これくらいまでなら酔った勢いが許されるんじゃないかな、なんて思っている。でも俺たちはもうすっかり酔いなんか冷めてしまった。だから、この先は、自分たちの意志しかない。
でもまあ、きっとここまでだろう。理央さんずっと固まっていたし、何なら俺にひいたかも知れない。それなら小言が少し減るかもな、ならいいかも。
そんなことを考えていたら、おもむろに腕を引かれた。
不意打ちだったため急な力の作用に流されて体が傾く。そのまま理央さんの腕の中まで軽々と引かれてしまう。
「え?」
「……お前が言ったんだろ」
責任持て、と不機嫌そうな声で言われると理央さんは後ろから覆いかぶさるように俺を抱きすくめてきた。
(う、わ……)
ほぼ理央さんに凭れるような体勢のまま、後ろから伸びる腕にベルトとジーンズの前を寛げられる。
慌てて手を払うが、体格の差もあってなすがまま。理央さんの態度も先程とはえらい違いだ。
自身に手を添えられると、なんとも不思議な感覚になった。ひやりとした手のひらに包まれて上下に擦られていく。
「……何だ、もう溢れてる」
「……っ!」
低い声と耳元で感じる違和感。舌を這わされているんだと少し呆けた頭で思う。
首筋から耳の方へ。生温い柔らかな舌と冷えた固いピアスの感触のアンバランスさが逆に心地よい。
どちらも普段他人に触られない箇所だけに、ビクリと体が反応した。
「理央さ……」
「うん?」
尿道を爪先でぐちぐちと弄られる反面、首筋に這う唇や舌、言葉はやたらと優しい。痛いのか気持ちいいのかよくわからないまま、首だけで後ろに振り返り、理央さんにキスを乞う。
「ふ……」
直に感じる人肌がこそばゆくて上を脱がなきゃよかったな、と思っているとこちらの反応に気を良くしたせいか理央さんの左手が胸に伸びてきた。そのまま乳首に指が這う。
いつのまに、としっとりと濡れた感触の親指と人差指で摘まれる。
下の右手はすでに先走りで滑っている感触がこちらにもあった。
気持ちいい、けれど、苦しい。
そんな相反する感情が同時に浮かぶ。
息の上がる自分の姿を見て、理央さんが小さく息を吐くのが聞こえた。
(……蕩ける)
そんな言葉が浮かぶ。何がだろう? 自分の頭だろうか。そんなの、とっくの昔になっている。この状況になってから、俺の頭はずっとどろどろに蕩けて、もうだめだ。
「一、こっち向いて」
肩を引かれて、真正面から理央さんと向かい合う。何を、と思っているとぱちん、と硬い蓋の開く音が聞こえて、直後にケツにひやりと冷たいものが塗られる感触がした。
「いっ……! え、何、これ……」
「とりあえずの応急処置で悪い。けど、俺はお前を抱きたいって、最初に言ったはずだ」
――今更止めるなんて無理に決まっている。
そう理央さんは吐き捨てるように言うと、俺の体を抱えるように抱いて、先程塗りたくったケツの入り口に指をゆっくりと進めてきた。
「……っ!」
知らない感覚に小さく声を上げる。息が詰まるような、内臓を触られるような、とでも言えばいいんだろうか。
は、と息を吐きながら彼の肩に後頭部を預ける。ゆっくりと、自分の中を侵食するように押し進む指の感触に違和感がないわけでなかったが、同時に前を弄られて快感と違和感の間をたゆたうような感覚。
「……きついか?」
心配そうな理央さんの声に頭を振る。きついとか、辛いとか、そういうのじゃない。そんな事より、もっともどかしい何かがあった。
「いい……いいから、」
もっと触って、とうわ言のように呟いてしまう。
俺の奥の奥まで、理央さんに触って欲しい、ぐちゃぐちゃに食い散らかして。骨まで残さないで。
「……一、ごめんな、」
……別に言ったつもりはなかったのに、どうやら全部言葉になって口から溢れていたらしい……理央さんのがゆっくりと、俺の中に入ってきた。
ゆっくり、慣らすように。熱くて硬くて、大きいものが俺の中をひらいていく。
ずん、と理央さんのが最後まで入ったらしい頃には、俺はただずっと呆けたように口をだらしなく開いて、あー、だのうー、だのと言葉にならない声を理央さんに凭れながら零すしかなかった……。
「夢みたいだ……」
最中、ぽつりとそんな言葉が聞こえて、何が、と言いたかったのだけれど。
俺の腰を持った理央さんが俺の中に何度も打ち付けてくるから、俺はずっと、ひっきりなしに喘ぐしかなくて。
奥を何度もえぐってくる暴力的な快感にずっとずっと、蕩けたままでいた。
きっと葵も和馬もお持ち帰りした女の子を抱いている夜に、俺たち二人ときたら、どうだろうか。
……全く女に見えない俺の体で理央さんは発情して、女でない俺は女みたいに喘いでいるのだから、よくわからないこともあるものだ。
「も、イく……イくから、もう、やだァ……っ!」
絶え絶えになりながらそういえば、理央さんの手が俺のに触れる。いや待って、今触られたら俺、ちょっとおかしくなるかも。
きゅ、と強めに扱くように触られて、俺は結局、声にもならない言葉を発して、理央さんちの床を汚した。
ともだちにシェアしよう!