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(6)愛の試練
騒めく人々を制し、長兄が立ち上がった。
いよいよ3人目である。
長兄は、王道の王子様タイプの猫耳族。
しゅっとした美しいシルエットが印象的。
低い声で、ゆったりとした魅力的な話し方をする。
「なるほど、強さも勇気も兼ね備えている。それは認めよう。しかし、一番大事なのは愛だ。最後に、愛を試させてもらおう」
「愛……ですか」
想定外の題目に、バツは身構える。
「お前が、本当に弟を愛しているのなら、弟の事はよく知っているはずだ。私が知らない弟の優れた点を言ってみよ。それに納得できたら、お前を認めてやろう」
マルは、顔をパッと明るくした。
「俺の優れた点だろ? あははは、簡単じゃないか!! まずは格闘術! それに、高い敏捷性、危険察知能力、それにジャンプ力もすごいぞ。優れた点なんて山ほどある。さぁ、バツ、どんどん言ってやれよ!!!」
バツは、顎に手をやりしばらく考え込んでいた。
そして、思いついたものを、長兄にぶつける。
「ではまず……しょんぼりした時の垂れ耳、なんて如何でしょうか?」
「はぁ? お前何言ってる! そんなのどこが優れているんだよ! アホか!」
バツの言葉に、マルは顔をしかめた。
しかし、長兄は、深くうなづく。
「うむ、よく分かっているな」
「え!?」
バツは、ホッとした。
まずは、挨拶替わりといったところ。
バツの視線と長兄の視線は交差し、火花が散る。
「で、それだけか?」
長兄の威圧する表情。
バツは気を引き締める。
「では、不満の時のほっぺプクッ、はどうでしょう?」
マルは、思わず吹き出す。
「あははは、俺がそんな顔すっかよ!!! 俺は簡単に顔にでねぇから!!」
「ふふふ、よく分かっているじゃないか? しかし、それだけか?」
「へ?」
マルの驚きなど気にせずに、バツはさらなる手札を切る。
「まだまだ!……お尻の蒙古斑を密かに隠す姿!!」
「な!!! お前、俺のお尻の蒙古斑、知ってたのかよ!」
マルは、恥ずかしさと怒りで、わなわなと手を震わす。
長兄は、口元に笑みを浮かべた。
「……くくく、確かに、一生懸命に隠してるつもりが、実はバレてしまっている、その姿、尊い、尊すぎる……分かるぞ同士」
「バツのアホ、アホ、アホ! 恥ずかしいから、もう言うな!! 言わないでいい!!!」
マルは、涙目になって、バツの肩をポカポカと叩く。
長兄とバツは、騒ぐマルに構わずに話を進めていく。
「……しかし、そのくらいなら、私だって知っている事……惜しいが、それがとっておきというのなら、認める事はできない」
バツの目が怪しげに光った。
「じゃあ、これはどうです……」
「おい、バツ、何を言い出す気だ? もういい! もう言うな!!!! はぁ、はぁ……」
バツは、拳を突きだして言い放つ。
「これこそ、とっておき! へそ天でお昼寝。しかも足ピーン!!」
辺りは氷ついた。
「な、なんだと……へ、へそ天、足ピーンでお昼寝だと!!!」
長兄は、バツの言葉の衝撃さに、おもわず立ち上がった。
「う、嘘だろ……へそ天って……」
「まじか? それって、まずくないか?」
人々の口からそんな言葉が漏れる。
へそ天。
それは、完全無防備なリラックス状態で、猫耳族は、たとえ親であっても、絶対に誰にも見せてはならない究極の萌え姿。
ようは、見るも見られるのも一番恥ずかしい姿である。
「は、はぁ!? へそ天だ? しかも足ピーンって……ぷっ、俺がそんな姿をバツに晒すなんてあるかよ! アホくさ!」
しかし、バツは目を閉じて微動だにしない。
たらりと、マルの額に汗が伝う。
「う、うそだよな!! バツ! おい! 冗談だろ!!」
バツは、首を静かに横に振った。
マルは、おそるおそる尋ねる。
「……マジなのか?」
コクリ。
「うぉー!!! 俺は、なんてことを……は、恥ずかしい!!!」
マルが、顔を真っ赤にしてそう叫ぶと、会場は、大混乱に陥った。
一同パニック……いや、何とも言えない、嬉し恥ずかしいさ昇天状態。
どうやら、猫耳族は、この話題となると、誰がしも、我が事のように思って恥じらいを爆発させてしまうらしい。
長兄も、顔を真っ赤に火照らせて、ぶつぶつと呟く。
「我が弟のへそ天……ああ、萌え死ぬ……このままでは萌え死んでしまう……うぐっ、し、死んだ……」
長兄は、目をハートにしたまま、バタリと倒れ込んだ。
****
さて、広間の混乱が収まるまでしばらく時間がかかった。
長兄がおごそかに口を開く。
「オホン……素直に負けを認めよう。確かに、バツ。お前の愛は本物だ」
歓声が上がる。
バツは、腕を勢いよく天に伸ばした。
「ありがたき、幸せです!!」
ついに3人の兄達の試練をクリアしたのだ。
白い歯をキラッと光らせて、やり切った男の顔。
イケメン顔が映える。
一方、半べその泣き顔のマルは、それを見て、不服そうに叫んだ。
「はぁ!? はぁ!!!! 何だよこれ!!! 結局、俺が恥をかかされただけじゃないか!!!」
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