猫耳族の聖なる祭壇。 バツとマルは、そこに二人だけで、ひっそりと集まった。 花婿姿の二人。 真っ白な兵士の礼服で身を固め、向かい合った。 バツは、晴れやかな表情。 マルもまた同じように清々しい面持ち。 「……マル、これで認められたな。俺達の結婚」 「ああ、これで堂々と結婚出来るな」 「マル、愛してるよ！」 「俺もだぜ、バツ！」 二人、ガシッと肩を抱き合い、熱いハグをした。 「……さぁ、誓いのキスだ。いいな？」 「ああ、頼む……」 二人の顔が重なる。 と、その時、祭壇中に、大きな声が響き渡った。 「ちょっと待った！！！　その結婚は無効だ！！」 なんだ、なんだ、とバツとマルは辺りを見回した。 すると、祭壇の入り口から、人の波が押し寄せてくるのが見えた。 その先頭には、マルの兄達３人の姿があった。 マルは、それを確かめると大声で叫ぶ。 「アニキ達！！　どうしてだ！！　俺の結婚認めるって言っただろ！！！」 長兄が静かに言った。 「マル、お前の結婚を認める訳にはいかない」 「なぜだ！　バツは、アニキ達の試練に打ち勝っただろ！！」 マルは、両の手をぐっと握り締め、泣きそうな顔で声を張り上げた。 長兄が続ける。 「確かに……バツの強さ、勇気、そして愛を認めた。しかし、マルとの結婚を認めるとは一言もいってない」 「なんだって！！！」 ３人の兄達は、バツの方に向きを変え、一斉にバツの前に手を差し出した。 「バツ、私達と結婚してくれないか？」 「は！？」 バツは、驚いて目が点になった。 それは、マルも同じ。 何を言われているのか、理解が追いつかない。 末兄が言った。 「バツ、お前が戦いの中で見せた、猫耳族の弱点に対する激しい攻め……あんなのを見せられてしまったら……私もゾクゾクしていてもたってもいられない。私の猫耳も、思う存分舐め回してくれないか？」 次兄が続ける。 「……まったく、バツ、お前というやつは……人前だというのに、あのような甘くとろけるようなキスを……なんて勇気のある男よ。ああ、思い出しただけで、胸がキュンキュンする。さぁ、私とも、熱くて官能的なキスを交わそうじゃないか」 そして、最後に長兄が言った。 「うむ、バツ……私とて、お前の愛の深さに心を打たれた。まさか、猫耳族がへそ天を晒すなど……それは、つまりお前の愛情の深さに応えた自然な行為……まったく、私もそんな風に愛されたいものよ。ああ、羨ましくて仕方ない」 三人とも、顔を赤らめてすっかり乙女顔。恥ずかしそうにハニかんでいる。 バツは、目を白黒させ、しどろもどろになった。 「……こ、これって……つまり……」 「ああ、そうだ……つまり私達は、バツ、お前に恋をしてしまったのだ！　さぁ、結婚しよう！　私達を婿に迎えてくれたまえ！！」 「え、え、えーーーっ！！！」 一番驚いたのは、マルだった。 「何言ってんだよ！　アニキ達！！　ダメだ！　ダメに決まっているだろ！！　バツは、俺のモノだからな！！！」 マルは、手を大きく広げ、バツを守るように前に立ちふさがった。 しかし、兄達は、マルを軽く押しのけて隅に追いやると、バツに群がる。 「ほら、バツ、お前の好きな、猫耳だぞ。どうだ？　モフモフして美味しいぞ？」 「バツ、キスだ！　キスをしよう！　ほら、勇気を出して！　なんだ？　恥ずかしいのか？　仕方ない、私の方からしてやろう！」 「バツよ。さぁ、我が手を取るがいい！！　そして、愛を深めようではないか！！　私も、お前になら、へ、へそ天を見せてやってもいいからな……」 バツは、モテモテで、体を右に左にへと、もっていかれる。 「……た、助けてくれ……」 バツは、あっぷあっぷして溺れかけた。 そこへ、マルが突撃し、バツの手を取った。 そして、その手をぎゅっと握り直して、走り出す。 「………バツ！　こっちだ！！」 愛する男が目の前から忽然と消え、三人の男達は慌てふためいた。 それが、末弟のマルの仕業とわかると、マルに向かって喚き散らかした。 「何をする、マル！　お前は弟だろ！」 「そうだ、マル。お前には、まだバツは早い！」 「マル！　バツを返すんだ！　バツは、私達のモノだ！！」 迫りくる兄達の手。 マルとバツは、その声を背中に受け、命からがら猫耳族の里を後にした。