19 / 21

第19話

 父さんのSPに家に連れ戻されて、いつもはあまり入ることのない応接室に連れて行かれた。  豪華な絨毯が敷かれた床の上に、艶のある革張りのソファーが幾つも置かれている。  「一体、あんな廃れた食堂で何をしてたんだ!」  「週刊春春に載ってた、あの子は誰なの!? 顔が裕ちゃんにソックリだって言うじゃないの? しかも、外であんなこと……」  部屋に入るなり、父さんと母さんが、それぞれ言いたいことを捲し立ててきた。  週刊誌を改めて見たが、最初に入れ替わって、兵士にお見合いをさせた後の帰りを撮られたらしい。  路チューも、頬にだけどしていたし……。 「そいつは何処の誰なんだ? お前とどういう関係なんだ!」  父さんはいつものように、威圧的で、傲慢で、冷静に話を聞こうともしてくれない。  今まで一度も、父さんに意見を言って、聞き入れられた事はない。  跡継ぎになる事。そればかりを押し付けられてきた。俺も、それが自分の運命なのだと諦めていた。でも、今は……。 「その人は、俺の恋人。大切な人だ。」 「なっ……! 恋人だと!?」  父さんは唖然として、言葉が出てこないようだった。母さんは驚いた顔で押し黙っている。 「俺は、この家を出ます。これからは、兵士と一緒に、自分の力で生きていきたい。  ……今まで育ててくれて、ありがとうございました。」  俺はソファーから立ち上がって一礼すると、部屋を出た。  玄関を出ると、桜の木に鳥が集まって、歌っていた。楽しげにつつき合ったあと、空へ飛び立っていった。  ずっと何処かへ飛んで行きたいと思っていたけれど、今がその時なのかもしれない。

ともだちにシェアしよう!