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「元気そうだね。しかも、立派になって」  にっこり笑われて頭を下げる。 「大学生?」 「はい。大学二年、誕生日きたら二十歳になります」 「そっか!あの小さなたっくんが……そりゃ僕も歳をとるはずだよねぇ?」  目を細めて笑うその姿は懐かしいが、素直に喜べなかった。  さっきの先輩との距離、今も離さない手。 「お知り合いだったんですね」  俺の視線に気づいたのか先生から離れて先輩は俺と先生を見る。 「はい。保育実習でお世話になった園に通っていた園児さんです」  一瞬ピクッと眉を動かしたが先生は優しく微笑んだ。 「では、健太先生!仕事の疲れを癒してきて下さいね!」  笑っているように見えるのに僅かに感じる違和感。 「たっくん……はもうよくないですね。拓翔くん、また会えるのを楽しみにしています。お食事も楽しんで」  なぜか感じる焦り。  この嫌な予感は何なのか。 「はい!春樹先生もよい週末を!お疲れ様でした!」  かわいい笑顔を見せる先輩の腕を引く。 「何だよ」 「早く行きましょう」  久々に先生に会えたのに、今は少しでも早くこの場を去りたい。  言いようのない不安がどんどん膨らんでいく気がして、俺はさっさと頭を下げると先輩を助手席に押し込んだ。 「ははっ、優希さん(おとうさん)より敏感で警戒心は強い……か?」  ボソッと吐き出された低い先生の声には気づかずに。

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