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先輩に夕飯も作って一緒に食べてから帰宅すると、ソファーに凭れ掛かった父さんの髪を城くんがドライヤーで乾かしているところだった。
何となく感じる甘い空気には触れないでおく。
「あ!あのさぁ、保育園の時の春樹先生って覚えてる?」
カバンを降ろしてグッと伸びをすると、城くんは凄い目でこっちを見てきて、父さんはピタッと動きを止めた。
ドライヤーまで止まり、明らかに変わった空気に俺も動きを止める。
「え、何?何かおかしなこと言った?」
城くんはなぜこんなピリッとした様子なのか。
「いや……その……会ったのか?」
ダルそうに立ち上がった父さんを支えた城くんだが、父さんが微笑んでキッチンに行くと俺の方を見て小声で聞いてきた。
「うん、先輩の職場の上司?そこの保育園の年少の主任だって」
つられて俺まで小声になる。
「……何かしてきた訳ではないな?」
「え、何?春樹先生がってこと?何かあったの?」
聞いても城くんはなかなか答えてくれない。
「……まぁ、何となくいい気はしなかったんだけど」
胸に留めておくこともできずに本音を漏らすと、城くんは前髪を掻き上げてため息を吐いた。
「その直感はたぶん正しい」
鋭いその目を見て何かあったのかを聞きたかったのに、父さんが戻ってくると城くんはすぐにそっちへ行く。
そして、手を取って二人は二階に上がってしまった。
記憶の中では笑顔の優しい先生。
だが、あんな父さんたちの反応と俺も感じた嫌な予感。
「ちっ……」
今は舌打ちするしかできなくてもどかしい。
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