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44、第6話「わかってよ」
『タク〜?出るのおっせぇぞぉ!』
珍しく水曜日に先輩から電話があって慌てて出る。
まだ塾のバイトを終えて帰り支度をしていた俺は明らかに酔っているその声を聞きながら必死に手を動かしていた。
教科書をカバンに入れて、さっきまで飲んでいたペットボトルを教室に忘れてきたことを思い出す。
『タク〜?聞いてるかぁ?』
「聞いてますよ!今、授業も終わって片付けてたからちょっと待って……」
『ならうち来いよ〜』
「はぁ?」
思わず壁の時計を見上げて動きを止めた。
いつもならとっくに寝ているこの時間にこんな酔っているなんて、何かあったのだろうか?
それに間もなくニ十三時になるということは……先輩の家に行って少しのんびりしてしまったら終電がなくなる可能性もある。だが、
『……会いたい』
考えていた耳に流れ込んできた甘い言葉。
それは酔っているからだとしても俺の気持ちを浮上させるには十分だった。
「すぐ行きます」
答えつつカバンを肩に掛ける。
ペットボトルを取りに教室に寄ると、一旦落ち着いてその中身を流し込んだ。
「城くん?ごめん。もしかしたら終電なくなるかも」
いつの間にか切れていた先輩からの電話を確認して城くんに電話をする。
『あのなぁ、こんな平日から……』
「わかってる。でも、様子がおかしいのは放っておけない」
『……ならまた連絡しろよ』
城くんの理解力に感謝をして、俺は駅へと走った。
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