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「先輩がめちゃくちゃガッつくから」
昨夜のことを思い出すだけで恥ずかしくて悶えてしまいそうになる。
「はぁ?お前がかわいいことするから悪いんだろ」
「えー?俺ですか?」
なのに先輩はこっちを下から覗き込んできてちょっと唇を突き出した。
そのかわいさに完全にやられる。そして、
「だってお前……何回イった?」
ニヤリと笑われて黙り込んだ。
いくら日曜で人も少ない時間帯とはいえ電車の中だ。
さすがに小声だが誰が聞いているかわからない。
それに何回なんて……俺にはわからない。
そんな俺の反応を見てニヤニヤと笑う先輩から顔を背けると、腕を引っ張られて俺たちはまた近い距離で目を合わせて笑った。
しばらくして俺たちの地元の駅からバスに乗り換えて家に辿り着くと、父さんが待っていた。
「健太くん、わざわざ送ってもらって申し訳ない」
頭を下げて先輩と話し出した父さん。
まさか、父さんも昨夜のことに気づいて……?
「城くんから拓翔が腰をやって動き辛いらしいって聞いてね。だから、引っ越しのバイトは大変だって何度も言ったんだ」
眉を寄せて困ったような顔をする父さんを見てホッと息を吐き出した。
城くんが誤魔化したのか、ただ父さんが鈍いのかはわからないが父さんにはまだバレていないらしい。
「じゃあ、僕はこれで……」
「いやいや、ご迷惑おかけしてるし、うちで昼、食べて行かないか?城くんが作ってくれているから」
引き留められた先輩は迷っていたが、用意されていると聞いて頷いてくれた。
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