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「よかった。居た」  ファミレスで机に伏せている先輩を見つけて安堵の息を吐く。 「先輩」  声を掛けてその肩に触れると、先輩はビクッとして顔を上げた。  俺と目が合ってホッとしたような顔をする先輩を見つめて正面に腰を降ろす。 「何があったんですか?」 「っ……」  机の上にある先輩の手を握ると、先輩の瞳が揺れた。 「何か食いました?」  先輩の前には氷が溶けた残りのようなグラスのみ。  イスの上には仕事の時にいつも持っている大きなリュックもあった。  恐らく家には帰っていないのだろう。  弱々しく首を振る先輩に微笑みかけてメニューを開いた。 「腹減ってるとロクなこと考えませんからね!食いましょ?」  握っている手に力を込めてもあまり反応のない先輩。  勝手に一緒につまめるものをいくつか頼んで俺はドリンクバーに立った。  だが、俺がアイスコーヒーとオレンジジュースを持って戻ってくるとちょうどバイブ音が響く。  ビクッと跳ねて身を縮める先輩。  先輩を奥に押して無理矢理俺も隣に座ると、先輩を抱き寄せた。   「誰からかわかってるんですか?」 「……眞一郎(しんいちろう)」  俺の胸にくっついたまま絞り出された名前を聞いてその肩をしっかり抱く。  元彼がまた何かをしてきたらしい。 「先輩、スマホって電源切っちゃダメですか?」 「タクに会えたからもう……」  背中を擦りながら聞くと、先輩は俺にすり寄ってきてゆっくりこっちを見上げた。

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