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「俺がコンビニで飯買ってる間にあいつは俺の家に行ったらしくて……」
俯く先輩の手を握る。
「何かされたんですか?」
声に怒りが滲みそうで必死に堪えた。
空いている片手でグラスを持ってゆっくりオレンジジュースを口にする。
やけに苦く感じて、俺はそっと息を吐き出した。
「……抱き締められて……キス、はされたけど……逃げたよ。タクシー捕まえて……で、ここに居た」
「じゃあ、これは?」
先輩の顔を覗き込んでその左頬に触れる。
その頬は赤く少し腫れていた。
「あ……殴られたな。だから、弁当の袋ごとでぶん殴って逃げたから……」
フッと笑う先輩の頬を何とか冷やせないかと辺りを見回す。
「待ってて」
急いで立ってハンカチを水で濡らしてきた俺はそっと腫れている頬に当てた。
「……情けね」
「まだ逃げられてよかったですよ」
殴られたなんて怒りはあるが、隣に先輩が居てくれることにまずは安堵する。
「あーでも、弁当もったいなかったなー」
「じゃあ、これ食ったらうちに行きましょ?」
「は?」
こっちを見て戸惑う先輩に微笑みかけた。
「まだ元彼居るかもですよね?そんな家には帰せません」
「いや、でも……」
「大事な恋人に手を出されて……俺が何もしないとでも?」
「いや、迷惑……」
「心配なんですよ!せめて守らせて下さい!」
真剣にその目を見つめると、先輩はゆっくり頷く。
「あ、でも、優希さんと城さんに確認……」
「わかってます!電話してくるんでちょっと待ってて下さい」
笑いかけつつ、怒りで叫び出しそうだった。
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