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 城くんがすぐに迎えに来てくれて、リビングの横にある和室も先輩が泊まれるように準備してくれていた。  まだためらうような先輩を無理矢理家に押し込むと、城くんも氷を持ってきてくれた。 「明日まだ腫れてると思うぞ。仕事、大丈夫か?」 「湿布で誤魔化せませんかね?」  先輩が帰って来る前に買った湿布を取り出すと、城くんはもう一度頬を見てから息を吐き出す。 「少しメイクでもして誤魔化すか?」 「え?」 「腫れは無理だから湿布はした方がいいと思うけど、黒くなってたりするとやっぱ子供たちは怖がるだろ?」  言われて迷う先輩に「俺の腕を信じろ!」と城くんが笑った。  城くんはただイケメンで家事が完璧なだけじゃない。  美容師としても人気で、実力もあって……今では店長として店も任せられている凄い人だ。 「城くん、服はこれでいい?」  父さんも和室に顔を出して、持ってきたパジャマを見て俺は眉を寄せる。 「は?父さんの着んの?」 「いや、サイズ的に僕のじゃないと。お前のも城くんのも大きいだろ?」 「……嫌だ」 「は?」 「俺のチームTシャツとバスパンなら先輩のと一緒じゃん」  先輩が他の男の服を着るなんて、許したくなかった。 「で、俺も今夜は和室(ここ)で寝る」  俺も先輩の横に移動すると、父さんがため息を吐く。 「あのなぁ、合宿とかのノリじゃないんだぞ?健太くんをちゃんと休ませて……」 「こんな目に遭った恋人を一人になんてできるかよ!」 「は?」  父さんの動きが止まって、俺は隣から先輩に肘で突かれた。

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