89 / 166

89

「先輩……」  呼び掛けると、先輩はこっちを見て強張っていた表情を少し崩して笑う。 「まぁ、璃央さんより……今はその元彼だろ?」 「そうだね。ここならどれだけ居てもいいからね」  城くんが話を今の問題に戻すと、父さんも身を乗り出して心配そうな顔をした。 「ありがとうございます」 「だから、俺も和室(した)で寝る」  頭を下げた先輩を見て、俺も再び譲らないと城くんはフッと笑う。 「ま、今日くらいはいいんじゃないですか?」 「でも……」 「不安な時、傍に居て欲しい気持ちはわかるでしょう?」  包むようなその優しい声を聞いて父さんは少し考えてからゆっくりと頷いた。  本当、この二人はすぐに自分たちの世界に入るんだから。  いい歳をして……とも思う。  だが、それこそ……この二人を見て育ったからこそ、愛しい先輩を俺は本気で守りたいし、気持ちはちゃんと伝えたいって思うんだ。  いくつになっても、どれだけ長い時間経ったって……あぁやって他から見たら呆れるくらい愛したいと思う。  それが父さんと城くんの二人から学んだ俺の理想の姿だから。

ともだちにシェアしよう!