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90、第12話「傷」
「嫌です!俺も行きます!」
「だからぁ、そんなことしなくていいってば!」
朝からリビングで言い合う俺と先輩。
「嫌です!心配ですもん!」
「俺はもう出るんだぞ?タクはまだゆっくりしていられるだろ?」
「そんなの一回帰ってくるから大丈夫です」
「何言ってんだ!そんなの手間だし……」
「俺が送りたいんですよ!俺が勝手に心配してそうしたいだけです」
もうずーっとそんな言い合いをしていると、父さんと城くんも止めて来なくなった。
朝は先輩が腕の中に居て幸せな目覚めだったのに、なぜこうなったのか?
俺が何度職場まで送ると言っても先輩は素直に頷かない。
今、父さんの服を着ているだけでも不服なのに。
思わず父さんを睨むが、城くんに淹れてもらったお茶を飲んで嬉しそうに微笑んでいてイラッとする。
こっちは“送りたい”ってお願いさえ素直に聞いてもらえないのに。
「あのなぁ、この家に泊めてもらっただけでも申し訳な……」
「そんなこといいです!俺が一緒に居たい!以上!!」
「だからぁ……」
「甘えたいんですよね?俺には甘えてくれないんですか?」
先輩の頬に手を添えてこっちを向かせる。
その黒い瞳を見つめると、先輩は「ズルい」と呟きながらこっちを見上げた。
その顔の方がズルいが、俺は笑って顔を近づける。
城くんの咳払いが聞こえて慌てて離れようとする先輩を抱き寄せてキスをすると、バシバシと背中を叩かれた。
「っ……タクのバカ」
そんな赤い顔……押し倒してやりたいんだが?
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