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男が走り去った背中を見てカクンと膝の力が抜ける。
その場に座り込むと、先輩はギュッと横から抱きついてきた。
しかし、すぐに首が取れるかと思うほどの力で顔の向きを変えられる。
「いっ!!」
顔を歪めると、泣きそうな先輩が鼻が付くほどの距離まで近づいてきた。
「顔に傷なんて作るなよ!」
「殴られて顔腫らした先輩に言われたくありません」
「……バカ。結構深く切れてんじゃん」
フッと笑って見せると、先輩は俺の頬をなぞって眉を寄せる。
「あいつの爪、何か仕込んであるんですかね?」
あのやたらピカピカの爪を思い出して聞いてみると、先輩は「あぁ」と思い出すように遠くを見た。
「あいつ美容系の営業マンでネイルとかも扱ってるから実際自分でも塗ったりするし、指先とかもめっちゃ手入れするんだよ」
「へぇ」
「興味ねぇな?」
「あんなやつに興味なんてある訳ないじゃないですか」
どうでもいい情報過ぎて、俺は立ち上がると先輩も立たせて腕を引く。
部屋に押し込んでドアを閉めると、そのまま唇を押し付けた。
「ん……は……」
性急に舌を絡めると、先輩も大きく口を開けて応えてくれる。だが、
「消毒!」
パッと離れた先輩がパタパタと走って行ってすぐに戻ってきた。
「もう傷なんて作んなよ」
「はい!俺は先輩を傷つけたりしません」
押し付けてくれた脱脂綿を先輩の手ごと握ってその目を見つめる。
「……バカ、意味違ぇだろ」
笑う先輩がかわいくてそのまま腕の中に引き寄せた。
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