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 火曜日、バイトもなく大学も早く終わった俺はまたあのカフェに入った。  春樹先生が居ないかを確認して席に着く。  ホッと胸を撫で下ろすと、カバンから資料を出してレポートを書き始めた。  先輩にメッセージを送っても返信はない。  普段の勤務中、一切連絡は取れないから。  まぁ、職員室にスマホは置いてあるから反応しない、と聞いているためそこまで気にはならない。  だが、しばらく資料をまとめつつ書いていても連絡はなくて、さすがに空腹も感じて顔を上げた。  時刻は十九時を過ぎるところで、さすがに遅くないか?とは思う。  とっくに園児なんて居ないだろうに。  それでも既読にもなっていなくて、俺はため息を吐いて項垂れた。  こんな職場近くのカフェで待っているなんて、女々しいと思う。  いくら寂しがりの先輩でも嫌われたら……一瞬そんな不安も過ぎった。  だが、『まだ居るか?』たったそれだけのメッセージですぐに気分は浮上する。  『居ますよ』とだけ打ちつつ外を気にしてしまった。  少し資料を閉じて、待っていられず結局全てを片付けてから席を立つ。  店を出ると、ちょうど人影が見えてきた。  だが、それはどう見たって一人ではない。 「拓翔くん、きみは忠犬なのか?」  春樹先生が隣に居るのを見て、俺はすぐに先輩の手を引いてこっちに引き寄せた。

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