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先生が目を逸らして水を手にしたのを見て、もぐもぐと口を動かしながら笑いそうになる。
しかも、先輩はチキンを手にして幸せそうに食べていて、その姿がかわいくて仕方なかった。
「健太先生は肉派ですか?」
春樹先生もそんな先輩を見ていたことにちょっとムッとする。
ずっと向こうを向いていればいいのに。
「はい!肉、好きですね!」
にこにこ笑う先輩の腕を引くと、先輩は不思議そうに俺を見た。
「好きとか気軽に言っちゃダメです」
「いや、肉の話だろ?」
笑ってもう一つ、と肉へと伸ばした手を今度は先生が掴む。
俺が慌てて立ち上がろうとするうちに……
「僕は好きですよ!健太先生が」
先生は真剣な顔で先輩を見ていた。
「なっ!!」
パッと手を伸ばして振り払おうとするのに、その前に先生は先輩の指先にチュッとキスをして離す。
呆然としている先輩の手におしぼりを当てても、先輩はただ固まっていた。
「僕は健太先生のこと本気ですから……考えてくれますか?」
なのに春樹先生はそんなことまで言い出す。
「考えるも何も!俺たちは付き合ってるんだよ!ね?先輩?」
先生を睨んでから先輩に同意を求めても先輩はまだ驚きの表情のまま固まっていた。
「先輩!っ……健太っ!」
肩を揺すって名前で呼ぶとやっと先輩はこっちを向く。
「あ……うん」
ちょっと頬を赤くしている先輩が心配で仕方なかった。
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