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半個室のような店でよかったと思う。
嬉しさが滲み出ている先輩を抱き締めると、先輩はすぐに力を抜いて体を預けてきた。
「先輩は俺のですって」
「そうだよ。でも……嬉しいだろ?」
「素直過ぎません?」
ため息を吐いて頬に手を添える。
こっちを向かせると、先輩は「ごめん」と言いつつもやはり嬉しそうだった。
無理もない、とは思う。
“好き”は先輩にとって特別な言葉だ。
ある意味これだけでコロッといってしまうくらいチョロい言葉。
俺がどれだけでもあげるのに……。
実の親である璃央さんからもほとんどもらっていない言葉で、好きな人を諦めることの多かった先輩にとっては奇跡のような言葉。
だから、あの元彼にもコロッとやられた訳だし。
「……こっちは本気で告白してるんで、せめて二人だけの世界に入るのは止めてもらっていいですか?」
半ば呆れたように言われて先輩が慌てて俺から離れる。
ピシッと背筋を伸ばすと、しっかり春樹先生の方を向いた。
「あ、いや……えっと……お気持ちは嬉しいんです!本当に!!でも、今はタクと付き合っていて……」
「いいですよ!別れたら教えて下さい」
断っているのに先生は爽やかな笑みを返す。
「はい?」
「なっ!何言ってんだっ!!」
またピシッと固まった先輩の横から身を乗り出すと、俺は思いっきり先生を睨んだ。
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