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「まぁ、拓翔くんと別れる前提で僕とも付き合ってくれてもいいですが?」
俺の睨みを気にすることもなくふふっと笑う姿に襟元を掴みそうになる。
「そ、そんなの!ダメです!」
「えぇ。だから、待って……」
「春樹先生!」
先輩が俺を制して先生に向き直ったが、それでも微笑んでいる先生にイラついた。
だが、先輩が少し声のボリュームを上げて遮ると、さすがに先生も黙って笑みを消す。
「僕はタクと本気で付き合っていて、別れるつもりはありません。もちろんお気持ちは嬉しいですがお応えはできません」
いつか見た大人びた先輩の姿。
普段ちっちゃくて、かわいくて、にこにこ笑っている先輩のこの姿にはドキッとする。
はっきりと示してくれたことも何もかも……頼もしい以外の言葉は見つからない。
だが、先生の深いため息を聞いてビクッと肩を揺らしてしまう。
前髪を掻き上げてこっちを見るその目はさっきまでの優しさや爽やかさは一切ない。
隣に居る先輩の手をギュッと握ると、先生はフッとその表情を崩した。
「健太先生は拓翔くんは以前女性と付き合っていたのはご存知なんですよね?」
この話題を蒸し返されるのは嬉しくないが、俺の手を握ったままこくりと頷く先輩を見てちょっとホッとする。
その姿に動揺は見られない。
「今はよくても将来……女にって時は来ますよ?」
「そんなの!」
「拓翔くんは黙ってもらえますか?まだ十九のきみにはわからない」
口を挟もうとしたのに鋭い目で黙らされる。
悔しいが、それには大人しく従った。
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