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「また女にいくかもしれない、と不安を抱えながらって辛くないですか?」
先生の声がやけに優しくてムカつく。
でも、そこは俺には口出しできない。
俺が不安にさせる側ではあるから。だが、
「タクは……大丈夫です」
「そんなの……」
「情けないことにタクは僕の全部を知っています。家のことも、元彼とか告白さえできなかった片想いの相手まで」
先輩は笑って「な?」とこっちを向く。
頷くと、手は繋いだままギュッと俺の腕にくっついてきた。
「ずっと後輩でしたけど、ずっと大事でした。タクだけは特別だった……もしかしたらずっと……」
言葉を切った先輩の顔を覗き込もうとすると、先輩はパッと顔を上げてにっこりと笑う。
「元カノもよく知ってる子なんです。本当いい子で……彼女を大事にするタクが好きでした」
「え?」
先輩は先生に向かって穏やかに話しているのに、思わず驚いてしまった。
だって、美玖を大事にする俺が好きだった?それって……。
「あ、いや……今思えば……な?お前にだけは嫌われたくなくて、お前と付き合うのあれだけためらったのも……お前とはずっと一緒に居たかったから」
パッとこっちを見て自覚したのは最近だと言う先輩が愛おしい。
「……それは今まだ付き合って楽しい時期だからですよ」
グラスに手を伸ばして水を口にした先生はグラスを置くと大きなため息を吐く。
「周りが結婚して、子供ができて……その時実感しますよ。俺も今だから余計……」
言葉を切った先生がやけに悲しそうで、俺はまっすぐ見られなかった。
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