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 チャイムが鳴ってあちこちから講師たちが話し出すのが聞こえる。 「じゃあ、始めようか」  俺も座って声を掛けると、生徒の二人は慌ててこっちを見た。 「えー?花咲センセ、風邪ー?」 「え、移さないで下さいよ」  予想通りの反応に内心笑ってしまう。 「風邪ではないけど、ちょっと声の出し過ぎでね」 「あー!私も練習試合の後とか声ヤバい!」  そんな健全なモノが原因ではないが笑って誤魔化しておいた。  二人が解いていく数学の問題。  ペンが止まる瞬間を見ておいて声を掛ける。 「ここでもう計算が違ってるだろ?これでは答えは出ない」 「あーそっか」  消していくのを見つつ、もう一人を見た。  真面目に淡々と解いているが、その式を見て少し考える。 「これはやりやすいから?」 「え?」 「こことこことここ……それぞれ求めて足しているけど、これが間違えているから答えが違う」  ペンで書きつつその反応を見た。  頷いてはいるがわかっているだろうか? 「よく見て。答えは三十八か?」 「……四十三です」 「だろ?いっぱい計算しないといけないし、ミスも増えるんだよ。それなら……」  大枠をなぞって一度様子を見る。 「あー!こっちを計算して……ここを出して引くんですか?」 「そう!」  笑い掛けると、その子も嬉しそうにまた問題を解き出した。  この瞬間が最高に嬉しい。  “わかった!”をもっとみんなに味わってもらいたい。

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