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とりあえず九十分、一コマ目を終えて自分の机に戻ってくる。
休み時間は十分。
グッと伸びをしてペットボトルに口をつけた。
その時にカバンの中の鍵が目に入って嬉しくなる。
しかも、スマホには先輩からメッセージが届いていた。
『バイト行けた?身体も平気か?』
そんなちょっとしたメッセージなのに嬉しくてもう会いたくなる。
「……抱き締めてぇ」
「あれ?拓翔先生、彼女できたんですか?」
声を掛けられてハッとした。
高校まで俺も生徒として通っていた塾だからか、先生たちは色々事情も知っている先生たちでニヤリと笑われる。
「美人?美人だよね?」
「うるさいっスよ。ほら、もう次のコマ始まりますって」
テキストを持って誤魔化してみても、
「何々ー?拓翔先生の恋愛?キュンな話?」
違う先生まで俺の道を塞いできた。
「……あーもうっ!くっそかわいくて、すっげぇカッコいい人ですよ!」
やけになって言うと先生たちは満足そうに笑う。
「うん!いい顔してるもんね!拓翔先生!」
「大事なんだね!その彼女のこと」
“彼氏”ですけどね、とはあえて言わない。
でも、これが男同士、人には言い辛い恋愛ということなのだろうか?
父さんたちも通ってきた道。
でも、別に悲観してはいなかった。
先輩が愛おしくて、先輩も目一杯愛してくれて……これ以上望むことがあるとも思えないから。
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