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133、第17話「現実」

 大学は夏休みになって、バイトでは夏期講習も始まったが思ったより時間には余裕があった。  基本昼過ぎからが授業だったから、バイトの前に先輩のアパートに行ってその日の夕飯を作っておく。  仕事を終えて帰った先輩が夕飯を食べてから送ってくれるメッセージを見てまた嬉しくなって授業をする日々。  再び金曜の夜に泊まって土曜日も一緒に過ごし、日曜の夕飯まで一緒に食べてまったり過ごす日々が戻ってきてどっぷり幸せに浸っていた。  完全に幸せボケしていたんだと思う。  俺たちは男同士。  世間一般にはあまり認められない付き合い。  家にも父さんと城くんが居るからそんなことさえ頭から抜け落ちていた。 「何?男同士で指絡めて手なんて繋いで……気持ち悪い」  買い物に出たその先で、完全に拒否する奇怪なものでも見るような目を向けられて俺は動きを止める。 「あなた……花咲さんとこの子でしょう?だから言ったのよ。男同士で子育てなんてしてるからよくない子供が育つって」 「璃央ちゃん!止めろ!そんなこと関係ないだろ!?」  先輩が俺の前に立って背中に隠された。  先輩を一人矢面に立たせるなんて……思うのに足は動かないし、喉も何かが詰まったように声も出せない。 「関係ない?息子を(たぶら)かされてるのよ!?関係ないことないわよね?」  先輩を退かしてこっちを覗いて来ようとする璃央さん。  俺は息をするのも苦しかった。  頭が殴られたようにガンガン痛んで思わず先輩の背にしがみつく。

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