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俺が顔を上げたことで、先輩は再び俺の手をしっかりと握る。
「璃央ちゃん、俺は昔から……小学生の頃にはもう男が好きだったよ」
「違う!」
叫ぶような璃央さんの否定。
「違わない。女の子とか……俺には無理だったんだ」
人通りは多くないが物珍しそうに振り返る人も居て、先輩はあくまでも声のトーンを落として璃央さんを見た。
「何で?」
「……むしろ、何で俺があんな理不尽な言いつけ守ってたと思う?」
先輩の声が少し低くなって思わず繋いでいる手に力を入れてしまうと、先輩もギュッと握り返してくる。
「理不尽って……」
「理不尽じゃない?学校終わってどこにも寄らずすぐに帰ってくること。友達なんて足を引っ張るだけだから作る必要はない。……本当にそれって俺のためだった?」
俺が先輩の横に完全に出ると、璃央さんはギリッと歯を鳴らしてこっちを思いっきり睨んできた。
「俺だけは璃央ちゃんの元に居るように……だろ?」
その璃央さんの視線を遮るように先輩は俺の前にまた出てくる。
「俺がそれに従ってたのは女の子に興味を持てない代わりに男にもそれ以上興味を持たないようにするためだよ?」
なぜか笑った先輩。
「でも、その子はいつも……」
「うん、タクだけは特別だったね。好きと認めていつか関係が崩れるのが怖くて“後輩”って思っていないと居られなかったくらい大事だったから」
震える声の璃央さんとは対照的に先輩は俺の方を見て優しく微笑んだ。
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