137 / 166

137

「俺が高三のあの日……璃央ちゃんも帰って来てただろ?」  話が見えなくて……ただ、伸ばしかけた俺の手はそれ以上先へと出せずに空中で止める。  高三?あの日?  そもそも先輩のハジメテって短大の時アプリで出会った男と……じゃなかったのか? 「な、何のこと?」  わかりやすいくらいに動揺を見せて璃央さんは先輩の手から逃れた。  クルッと俺たちに背を向けてその細い両腕を抱く。 「……借金チャラにしてもらう代わりに……俺を抱かせたんだろ?」  ヒドく掠れた先輩の声。 「……っ」  思わず震える先輩を後ろから抱き締めた。 「ごめんな。俺、こんなんで……」 「何言ってんですか!」  なぜか謝ってくる先輩に首を横に振りながら更に腕の力を込める。 「あいつが何回も何回も『健太を抱きたい』って言うから……って、やめてっ!!離れてっ!!」  振り返った璃央さんは俺が抱き締めていたことに気付いて引き剥がしにきた。  「自分こそ近寄んな!俺を男に差し出したのは自分だろっ!!」  璃央さんの腕を逆に掴んだ先輩はそれまで耐えてきたものを一気に吐き出すように叫ぶ。だが、 「一度だけでしょ?男は妊娠するわけでもないんだからそんな大袈裟な」 「あの一度で終わったと思うか?」 「……え?」  震えつつ涙を流す先輩を見ても笑っていた璃央さんも眉を寄せて口を閉じた。

ともだちにシェアしよう!