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考えが突拍子もなくて理解ができない。
返す言葉もなくてただ先輩を離さないように抱き締めていると、先輩は俺の腕の中で笑い出した。
「タク、無理だよ?」
俺の首の後ろに手を回してチュッとキスをしてくる。
「何を言ってもムダだ。自分の損得でしか動かねぇもん」
キスを見て怒りを見せる璃央さんに向き直ってからも先輩はわざと俺に寄り掛かって腕を絡めてきた。
「俺さぁ、あんたのお陰で男の身体を覚えたんだよ。無理矢理襲われたのに反応して……やっぱりゲイなんだって確信したんだ」
「なっ!!」
「それは感謝してるけど?」
ニヤリと笑って先輩は璃央さんを真っ直ぐ見る。
「あの時身体で払ってやったよな?もういいだろ?」
余裕のフリをして実は震えているくせに。
「嫌よ!あのアパートだって……」
「解約すればいいだろ!?家賃だって払ってもらったことはねぇし!俺はもう俺で生きてんだよ!」
璃央さんがしがみついてくると、先輩はその手を振り払った。
「でも!健太っ!!」
「今、男切れてんのかよ?そうだと俺に縋ってくるもんな?」
わざと璃央さんを煽ると、璃央さんも手を振り上げる。
だが、先輩は動かず、璃央さんも動きを止めた。
「叩くんじゃねぇの?気に入らねぇとすぐ手ぇ出んだろ?」
更に顔を出してみても璃央さんはグッと堪えるように唇を噛む。
そして、その手は振り下ろされず、むしろ先輩を抱き締めた。
「……一人にしないで」
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