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「ちゃんと……本気で謝って下さい」
「……は?」
ここまで言っているのに、まだ理解していないようなその顔にイラッとする。
「タク、もういい……」
「よくないですっ!」
先輩を一度抱き締めてしっかり目を合わせた。
諦めているようなその顔に何とか微笑んでから璃央さんの目の前に立つ。
「ちゃんと先輩に謝って……そして、もう解放して下さい」
「何言って……」
「もう先輩の人生を邪魔するのはやめて下さい」
「は?」
じっと見下ろすと、璃央さんはこっちを睨んできた。
だか、その目にさっきまでのような鋭さはない。
不安や恐怖、寂しさの滲んだ瞳。
「あなたも一人でやり直したらどうですか?」
「そんなの……」
子供のようなその反応をただ冷静に見つめた。
「あなたはずっと先輩に寂しい思いをさせて、更に先輩の身体まで簡単に他の男に渡しました。実の息子ですよね?なのに、深く心も身体も傷つけたことを自覚さえしていないなんて……許せませんよ」
ギュッと璃央さんが両手を握り締めるのが見える。
でも、俺も止めるつもりもなかった。
「あなたがどれだけ反対しようと俺は先輩と離れるつもりはありません。離れるべきはあなたです」
言い切ると、璃央さんは俺から先輩の方に甘えるような視線を送る。
それでも先輩が目を合わせないと、璃央さんはキュッと口をキツく結んだ。
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