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「そんなの……」
うまく言葉が続けられなくて唇を噛む。
「バカ、噛むなって」
笑う先輩は俺の口に軽く手を伸ばしてきてゆっくり肩に凭れ掛かった。
「さすがに通帳とかは全部持ってるけど……ここに置いておくと盗られるってわかってるのにここには置いておかないと不安だったんだ」
捉えた指先にキスをすると、先輩はくすぐったそうに笑う。
「通帳持ち歩いてるんですか?」
「俺のカバン見てみ?」
「いや、いいです」
自分の家なのに安心して大事なものさえ置いておけないなんて。
「それより……引いてねぇか?」
俺の肩から頭を起こして先輩はベッドの上であぐらをかいた。
「は?璃央さんには引くってかもう怒りを抑えるのに必死でしたけど?」
離れてしまった先輩の腕を引くと、先輩は不安そうに瞳を揺らしてこっちを向く。
「……俺、金のために男に抱……」
そんなの最後まで言わせたくなくて先輩を勢いよく抱き締めた。
そのまま口を塞いで深く舌も絡める。
「ふっ、は……」
しばらく離さないでいると、強張っていた身体から力が抜けていく。
とろんとしたその目を見つめると、もう一度ゆっくりキスをした。
「……俺、さっき内見させてもらった二番目の部屋にしたいんだけど……」
軽く息を弾ませながらこっちを見る先輩。
「保証人でしょう?父さんなら今家に居るから聞いてみましょうか?」
抱き寄せると、先輩は頷いてしっかりしがみついてきた。
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