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「てか、旅行に行きません?」 「旅行?」  先輩が持ってきてくれたペットボトルに口をつけてから一息吐いて聞くと、先輩はこてんと首を倒す。 「そ!夏の間出掛けなかったし、俺の誕生日……どうですか?」  声が掠れてダルさも残る身体をベッドに転がしてもう一度ふーっと息を吐いた。なのに、   「えー、無理じゃないか?」  先輩は俺が飲んでいたペットボトルに口をつけて笑う。  まさかノって来ないだなんて思ってもみなかった。 「金曜日だから仕事終わりの先輩迎えに行ってそのまま行けますよ?」  だから、粘ったのに先輩はギュッと俺に抱きついてきて目を閉じる。 「……聞いてます?」  覗き込んでその前髪を掻き分けると、先輩はパッと髪を戻してこっちを見た。 「……むしろ聞いてないのか?」 「何がですか?」  首を傾げても先輩は答えてくれず黙っている。 「……その日は空けとけ」 「だから、何でですか?」  やっと喋ったと思ったのにそんな言葉は理解できるはずがない。 「何でも」 「えー……」  さすがに納得できなくて起き上がった俺は先輩の顔の横に手を付いてじっと見下ろした。 「何なんですか?」  逃げようとする先輩の両頬を捕らえると、先輩は目を逸らしてからため息を吐く。 「……二十歳だぞ?やっぱ親としてはその……あるだろ?」 「は?」  無理矢理目を合わせると、グッと一度詰まってから先輩はガウッと食いつくように口を開いた。 「だから、家族で食事したいって聞いてんだよ!」

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