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 先輩は保育園で運動会に向けての練習。  俺は小学校と塾でバイトをするようになり、目まぐるしく日々が過ぎていく。  だからか、俺の誕生日はすぐに感じた。  アパートに着いてリビングダイニングのドアを開けると、 「なぁ!これでいいの?」  淡いピンクのシャツに黒いスラックスを穿いてベルトを締めた先輩が振り返る。 「……かわい」  ワイシャツの襟を上げてネクタイを掛けている姿は新鮮で、高学年の下校を終えて先生方と少し話してから直接ここに来た俺は少し首元を緩めて自身を落ち着けた。なのに、 「なー!タク!ネクタイってどーやんの?」  さっきから結んでいるのに一切結べていないなんてかわい過ぎる。 「高校ん時、ネクタイだったじゃないですか!」 「俺のパッチンだったもん」  言われて、確かに……と思い出して俺もネクタイを外した。 「こうやって……こうで、こうです」 「は?わっかんねぇし」  説明しながらやって見せたのに手を止めて首を傾げる先輩。 「あーもー、貸して下さい」  俺が結んであげようとして固まる。  ほぼ毎日考えることもなく結んでいるのに、いざ人のとなるとよくわからなくなった。 「……こっちからなら」  先輩の背後に回って後ろから手を伸ばす。 「ヤバっ……めっちゃドキドキするな」  そんなこと言われたら意識してしまって俺まで心臓がうるさくなった。

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