162 / 166
162
ホテルに入る先輩はかなりガチガチに緊張していて笑ってしまう。
手を引いてエントランスの近くにあったソファーに先輩を座らせて俺はその前でしゃがんだ。
「ただ飯食いに来ただけですよ?」
「お前の誕生祝いじゃん」
「ま、そうですけど」
「あ、どーしよ!フォークとかナイフとか俺ちゃんとわかんないけどっ!!」
もうパニックになっている先輩の手をそっと握る。
「楽しく食べればいいですって!」
「でも……」
「ね?」
笑うと、先輩はゆっくり頷いた。そのタイミングで、
「こんな入ってすぐで何してんだよ」
城くんの声がして振り返る。
「何でもないよ」
俺が立ち上がると、城くんはそのまま先輩の前に行った。
立った先輩と何やら小声で話していて少しおもしろくない。
俺も近づこうとすると、
「拓翔」
父さんに呼ばれた。
「二十歳だから今日からお酒も飲めるけど、もし僕に似ちゃってたらお酒弱いからな。少しにして様子見ろよ?」
「でも、俺ほとんど母さん似じゃん!大丈夫だろ?」
「優希さんは心配してんの!」
ケタケタと笑うと、話が終わったらしい城くんに頭をグッと押さえられる。
頭の上の手を退けると、城くんはフッと笑った。
「ま、行くぞ!うまい料理だしな!初めての酒には豪華過ぎんだろ?」
城くんが父さんをエスコートして、俺も先輩と並んで歩く。
「別に唐揚げとビールでもよかったよ?」
ぼつりと言うと、先輩にギュッと背中をつねられた。
ともだちにシェアしよう!