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 みんなで乾杯をして、ほんの一口だけ口をつける父さんに倣って俺もワインを少しだけ口に含む。 「うっま!」  ワイングラスの中で立ち上がる細かい泡も綺麗で、フワッと香る匂いも味も思っていたような堅苦しいワインのイメージとは違った。 「お前なぁ、スパーリングワイン飲んでそれかよ」  笑う城くんとホッとしたような父さん。  ほとんど飲めない父さんはすぐにグラスを置いたが、俺はもう一口飲んでやっと飲めるようになった喜びを噛み締めた。 「タク、平気か?」  なのに、心配そうな先輩。 「大丈夫ですよ?」  とりあえずグラスを置いても、先輩はまだ眉を寄せていた。 「でも、真っ赤」  伸ばされた手。  その手がひんやりとしていて気持ちいい。  俺はその頬にある手に自分の手を重ねて目を閉じる。 「うーん……やっぱ弱いかもな」  アンティパストのテリーヌを口にしてから城くんは少し困ったように笑った。しかも、 「拓翔!もう止めておけ!お前もダメだ!」  城くんと先輩は次の白ワインを頼んだのに、俺と父さんはジンジャエールを頼まれる。 「何で!せっかく飲めるようになったのにぃ!」 「弱いだろうが」 「弱くないしぃ!父さんみたいにニャンニャン甘えたりしねぇもん!」 「なっ、何言ってんだよ!」  言い合う俺と父さんを困った顔で見つめる先輩。 「大丈夫だよ。拓翔が酔う(こうなる)ことを想定しての個室だから。健太くんは料理楽しみな」  城くんは先輩に微笑んで促しつつ、ワインを飲んで料理を食べ進めていた。

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