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第53話
「手洗ってくるから、待っててね」
「待たないやい」
「待ってろやい」
結心はパタパタ走って手を洗いに行くと、急いで戻ってきて座る壮五を後ろから抱きしめた。
「嬉しいよぉ。俺といる時は飾らなくていいってことでしょ。」
「そうそう。それが言いたかった」
「俺もだよ。俺も壮ちゃんといると不安になることも少ないし、気持ちが楽。」
「……本当か? 俺といると楽?」
壮五は結心からそんなことを聞くのは初めてで、驚きつつ聞き返した。
すると結心はウンと頷き壮五の頭に顎を乗せる。
「壮ちゃんはさ、俺がどんなでも『好き』って言ってくれると思うから、楽。」
「?」
「嫌われないようにしなきゃって思わなくていいから、楽。」
一瞬、結心の本音が見えた気がした。
壮五はもう少し彼の本音を聞きたかったのだが、あまり突っ込むと二度と話してくれないかもしれないと思い、黙ることにした。
「あ、好きでいてほしいんだけど、壮ちゃんの理想を俺が出来なくても、壮ちゃんは俺を嫌いにならないと思うってことで……。決して壮ちゃんに嫌われてもいいって訳ではなく!」
「うん。わかってる。結心は俺のことが好きだからな」
「……壮ちゃんもね。」
壮五は顔だけ振り返ると結心と唇を重ねる。
結心はホッとして、壮五のそれに応えた。
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