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目を吊り上げ、睨み合っていたのも束の間、「馬鹿馬鹿しい」とため息混じりに言った。 「あんた、今の自分の立場が分かって、私にそんな陳腐な発言をしたっていうの?」 「······っ、別にただ戯れた程度で、そこまで言われる筋合いはないと思うんだが」 ロクに相手のことを知らなかったが、ここまで上からものを言う相手だとは思わなかった。 俊我が通っているこの大学も、彼女の家のものであって、そのような相手からの資金援助の申し出がきたことは、救いがきたとも言えるが、相手を選ぶべきだったのではと思い直す。 しかし。今は藁にもすがる思いである俊我の立場では選択肢する余地はない。 しぶしぶ受け入れるしかない。 「あんたの言うお戯れはここまでにして。あんたには早速相手を捜してきてもらうから」 「相手って、どう捜すんだ」 すると、不敵な笑みをした。 「今から言う所に行ってきてくれないかしら?」 華園院の方で秘密裏に手に入れたというデータを携帯端末で眺めた。 名前と共に、簡単な略歴と第二の性、そして。 「······身寄りなし」 昼間かと思えるぐらい派手で眩い看板に誘われそうなはっきりとした色合いの装飾に彩られた店が立ち並ぶ。 人によっては、夢心地に思えるような夜の町並みではあるが、俊我の目には危うさといかがわしさが映り、さらには、客引きをしている従業員らしき人の際どい衣装に、あまりもの現実離れした空間に早くも酔っているような気持ち悪さが出始めた。 「お兄さん、顔色悪くなぁい? もしかして、こういう所初めて?」 「······俺に構うな」 「つれなぁ〜い! ボクなら、すぐにヨくしてあげるけど······?」 「······っ!」 わざとらしく腕を絡ませてくる上に、無い胸を押し付け、上擦った声で言い寄ってくる。 我慢の限界だ。 「構うなと言っている。お前は全く好みではないし、無い胸を無理やり押し付けてくるのもありえんし、その気色悪い声で俺を誘惑出来ていると思ってるのか」 「······っ、な、に······っ」

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