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9.
鬱陶しいと振り払い、目を鋭くさせた。
こんな場所で喧嘩している場合ではないと、頭では分かっているが、口が止まらなかった。
バニーガールの格好をした少年とも見える相手は、やや大きい瞳を潤ませ、されど彼なりの精一杯の睨み返していた。
「なんなのさっ! 人がいい夢を見させようと思っているのに!」
「どこの誰か知らない奴に、夢なんざ見させてもらう義理なんてない」
「〜〜〜ッ!!」
肩を怒らせ、歯ぎしりさせていた。
そうした中、甘やかな夢へ誘われているはずの通行人のざわめく声が大きくなってきたことで我に返った。
「俺よりもいいヤツ選べよ」
「うっさい! この童貞!」
雑踏に紛れるようとする俊我の背中に向かって、罵声を浴びた。
「童貞」の言葉にぴくりと反応した。
言われてみれば確かにそうだ。
物心ついた時に許婚を交わし、その後数回会った時に、一言二言会話した程度で、デートすらしたことがなかった。
だから、元許嫁と身体を交わす機会がなかったため、このような場所に来ることなんてまずなかった。
そのような自分にこれからすることが務まるのだろうか。
目が眩む場所から裏路地へと足を踏み入れた。
さっきよりも眩しさを感じないが、人気が少なく、やや薄暗く感じられた。
ぼんやりと光るネオンにどこからか聞こえる囁き声。
誰かが建物との僅かな隙間からじっと覗いているような嫌な視線に、さすがの俊我も今すぐ立ち去りたいと思った。
けれども、目的物はここにいるはずだ。
まちまちと先ほど見たようないかがわしい衣装を纏った者を遠目で見つつ、頭に刷り込んだ人物を捜した。
「い、いかがでしょうか······」
ある店の近くまで来た時、今にも消え入りそうな声が聞こえ、その声につられるように振り向いた。
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