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『あいが』と名乗った娼年は終始緊張しているようで、通された部屋のベッドの縁に座り、肩を強ばらせ、膝上に乗せた握り拳を見つめていた。 そういう風に見せているのかと思ったが、人の顔を見るなり、怯えを混じえた目で見ていたのを思い出し、人見知りなのかと思った。 それとも、俊我の目つきが悪いからかもしれない。 目尻が上がり、やや三白眼のように見え、まるで蛇に睨まれているような印象を受けさせてしまうからだろう。 今までもそのせいで、同級生もあまりいい印象を受けなかったようで、距離を保ったまま一言話す程度の関係を築いてきた。 言うなれば御曹司と呼ばれ、玉の輿を狙って、言い寄ってくる女子達······なんてフィクションのようなことが起こるはずもなく、ただ平凡に過ごしていた。 何はともあれまずは、対象の緊張を解すところからだと思うが、なにせ浅い人間関係しか築いたことがないため、いたとしても、少ない友人の中に"あいが"のような人間がいなかったため、このような場面に遭遇した時、どうすればいいのか皆目見当もつかない。 頭を抱える俊我に追い打ちをかけるように、室内にはその気にさせるお香がたかれているようで、"あいが"から放たれるフェロモンと混ざり、気が緩んだ隙にそれらに呑まれそうで、堪えることにも必死だった。 「あの、俊我さん。お背中流しましょうか······?」 沈黙に耐えきれなかった様子の"あいが"が、仕事を全うしようとする。 こういう所に来ているのだから、普通は身体を重ねて、客を愉しませるものだ。 だが、"あいが"が普段相手にしている客と同じようなことをしては、心を掴むことは出来ない。 それならば、一般人でもしていることをすればいい。 "あいが"の誘いにゆっくりと首を横に振った。 代わりに口にしたのは。 「······話でもしないか」

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