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「そろそろ時間になるのですけど、ずっとお喋りだけでいいのですか?」 話題が途切れ、他に何かないかとお香の匂いに耐えつつ考えていると、絞り出すようにそう言われた。 「······別にいい。ゆっくりとしていたいんだ」 「はぁ······そうですか」 腑に落ちないと言ったように、気のない返事をして黙り込んでしまった。 そう、静かにしてもらえたらありがたい。 "あいが"の声変わりしているはずなのに、やや高めの声音に意識してないと思われるが、しおらしい言い方に誘われているような錯覚に陥り、今すぐにでもその透けている服を剥いで、透き通るような柔らかい肌を貪りたい欲に駆られるのだから。 本能を現してはならない。 葛藤している最中、終わりを告げるアラームが鳴り響いた。 「また来てくださいね」 その言葉を背に受けながら、部屋を後にした。 ようやっと解放された。 それは"あいが"も同じ気持ちだったようで、見送る言葉に安堵している声音のように聞こえたからだ。 今日、初めて来たのだからそう思われても仕方ない。 これから度々顔を出せば、認識してもらえ、俊我に慣れてくれるだろう。 そう思いながら、振り払うように猥雑な町から風を切って去って行った。

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