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ちょうど良い頃合いだろう。 「少しいいか」 「はい?」 見送るために立ち上がろうとするのを呼び止める。 懐から取り出した少し厚めの封筒を"あいが"に差し出した。 「えっと、これは?」 「金だ」 「え······?」 驚きと困ったような表情で、封筒と俊我を交互に見ていた。 この様子だと演技ではなく、本当に戸惑っているようだった。 やはり、雅の言うことは当てにならない。 「あの、受付でお金を頂いているので、申し訳ありませんが、受け取れません」 困惑した声音でさりげなく押し戻す。 "あいが"と会ってから、ずっと困らせているばかりだ。 このままいくと、最悪の場合、迷惑行為だとして出禁を食らう可能性がある。 そしたらまた、一から既成事実を作るためのオメガを捜す手間がかかってしまう。 その前にその程度も出来ないのかと、雅に小言を言われる。それがなんとも腹立たしい。 だから、それだけは阻止したい。 「お前の好きなように使ってくれ」 「ですが······」 「お前と話すのが楽しかったからではダメか?」 せめて、愛を囁けばその気になってくれるかもしれない。 だが、言えるはずがなかった。 当たり障りのない言葉で返すと、みるみるうちに目線が下がっていく。 距離を置かれた。これはもう終わりだ。 まるで絶望の縁に立たされたと後ろ向きな思考に陥っていると、 「······お店としてはダメかと思いますが······」 申し訳なさそうに受け取った。 「内緒にしておきますね」と付け加えて。

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